日本型雇用環境を労働者の方から捨て去る契機に?
こうした政府の方針転換の背景には、働き方改革というより、アベノミクス金融緩和によって実現した人手不足がある。これまでのように、副業・兼業禁止で、企業に縛り付けておく「働かせ方」では、人手不足は解消しない。
人手不足は労働者にとって朗報であるが、企業にとっては賃金上昇要因で好ましくない。そのとき、企業に副業・兼業禁止があると、労働者にとって、労働供給したくてもできない状態になる。そこで、一定の副業・兼職の余地があると、別の企業にとっては無理のない形で労働力の確保になり、より望ましい経済環境になる。
これは、労働者にとっても朗報である。必ずしも残業代が十分でない場合、副業・兼業が認められれば、自社に縛られずに働けるからだ。こうした自発的な時間労働であれば、「ブラック労働環境」ではなくなる。しかも、所得が増えるので、経済効果も期待できる。
何より、労働者が他の労働環境を知ることになり、企業にとっても副業・兼業禁止で縛っていたときよりも、その企業のメリットを強調せざるを得なくなる。
これはいい意味で、従来の「日本型企業」には大きな刺激を与えるだろう。兼業・副業をステップとして他の企業を知った場合、労働者は企業に縛られなくなる人も出てくるだろう。これは、日本型雇用環境を労働者の方から捨て去る契機になるかもしれない。いずれにしても、企業もうかうかできないだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「大手新聞・テレビが報道できない『官僚』の真実」(SB新書)など。