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   はじめまして。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太です。ネットニュースに燃やされ続けた男がネットニュースの明日を探るこの連載。ネットニュースを作るには、まずはネットニュースの現状を知る必要があるということで、1回目は、ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さんに話を聞きます。

   藤代先生は現在、大学でソーシャルメディアに特化した授業を行っていらっしゃいます。

   僕は、ネットニュースについて日頃思っている疑問というか、怒りというか、恨みつらみがあるものですから......。今日は、そんなこともぶつけてみたいと思います。

いろんな人がニュースを作れるようになった

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山里:今日はよろしくお願いします。先生も教えてらっしゃるソーシャルメディアもそうですけど、ネットの影響力大きくなりましたよね。

藤代:そうですね。毎年学生に「きょう新聞見ましたか? テレビ観ましたか?」と聞くんですけど、たしかに新聞はものすごい勢いで減っていますね。テレビは意外と観ているかなという感じですが、観る時間は減っていていますね。テレビって"ながら視聴"のメディアなんですが、今は"ながらスマホ"が多くなっています。接する時間の中心がテレビからスマホにシフトしています。(図1)

山里:スマホにかんして言えば、スマホで見るニュースの信憑性がぐっとあがってきたと思うんです。スマホのニュースは、今まで新聞にはかなわないなと思ってきたけど、いろんなアプリが出てきてニュースがどんどん流れてくる。ソースをみると有名な新聞社だったりして。いまはスマホの方がいろんな情報が一気に入るし便利だなと。
ただ、気になるのは、そこの中に入ってくるめちゃくちゃなニュースですよ!
僕が、というより芸人の1番の敵だと思っているのが「番組の文字起こし」ね。それに事件っぽいタイトルをつけて、大事なニュースとニュースの間にひょこっと入ってきたりして......。
今日ね、僕先生に伺いたいのは、そういうニュースを根絶やしにしたいんですよ!

藤代:根絶やし!?(爆笑) 難しいですねぇ。

山里:ネットニュースの人ってすぐ悪くかけるじゃないですか。自分の主観で。最近、普通のこともネットニュースだとどんな風に書くかなって大喜利みたいに想像してるんですけど。たとえば今日(編注:安倍晋三首相主催の「桜を見る会」に出席)だったら、「山里、安倍総理とあってにこやかな笑顔。ほかの芸人たちがげんなり」みたいな。

藤代:あー! 手口がね。

山里:そう。そういう手口でいっぱい作ってくるじゃないですか。昔でいったら2ちゃんねるとかのスレッドにあがる程度でニュースっていう価値はなかったけど、今は個人の見解でイヤなタイトルつけただけの文章が「ニュース」って扱いになってしまう。あれっていつからあんなパワーもっちゃったんですかね。

藤代:ニュースは最初、新聞とテレビ局が発信するものだったのが、インターネットが普及すると、ニュースを作ったらたくさんの人が見る、つまりページビューが稼げるということが分かったんですね。ページビューが稼げると広告収入も入る。それに対応した新しいネットメディアが出てきたのが2000年代初頭です。
Yahoo!ニュースのようなポータルサイトが、ネットメディアの記事を扱い始めた。さらに、個人で情報を発信できるツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが広がり、スマホを介してニュースを知ることになる。
そこで、新聞やテレビ、週刊誌だけじゃなく、いろんな人がニュースを作れるようになったわけです。

人間が見たい欲には勝てない

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山里:いろんな人が作れるって重要なポイントだと思うんですよ。資格も許可も関係ないじゃないですか。プロでもなんでもない人がテレビを観て、言っていることを全部文字にして、それに刺激的なタイトルをつける。それを止めさせることってできないんですかね。

藤代:ちょっと難しいと思うんですよね。だって人間って見たいじゃないですか。見たい! 山ちゃんが桜を見る会で、なんかおいしい発言してたらやっぱりみたいんですよ。

山里:確かにね......。僕も、被害者みたいな顔して今しゃべってますけど、自分がネットニュースで刺激的な、たとえば「辻ちゃん炎上」(編注:辻希美さん)っていう見出し見たときにどうしているか、なんですよ。
「またどうせたいしたことないことを炎上って煽って、辻ちゃんを批判する流れをつくりたいんだな。こんなの見るか!」って、言えているかといえば言えてないですし。

藤代:ついね。つい押しちゃうんですよね。

山里:そう。見ました? この間の辻ちゃんの炎上。こんなので炎上するかっていう代表格なんですけど。辻ちゃんがイチゴ狩りに行ってイチゴに練乳をかけて食べたんですよ。

藤代:おいしいじゃないですか。

山里:いや違うんです。イチゴの素材を殺すなって炎上したんです。

藤代:すごいですね(笑)。

山里:でもね、本当はそんなことを言っている人たちに対して「バカじゃないか」「いいがかりじゃないか」というのがニュースだと思うんですよ。
でも一部のネットニュースって極端な話、「なんで素材をムダにするんだ」「あの農家の方は素材の味を生かしていたんだ」っていうようなニュアンスを記事で補足するんです。辻ちゃんがもっと燃えるように。それってニュースとして不健全じゃないかなと思うんですよね。

藤代:たしかにそうだと思うんですけど、ゲスい記事の中に時々スクープがあるのが週刊誌。新聞社はゲスいのはやりません、東スポの見出しは釣りかもしれない、という区分があって、それを分かったうえで楽しんでいたんですけど、今のネットはごちゃごちゃなんですよ。どれが釣りタイトルで、どれがゲスいメディアか分からない。なので、つい押してしまう。本当かもしれないから。もし本当だったら話題に乗り遅れるのはもったいなじゃないですか。
でも押しちゃうと、だいたいゲスいメディアなんですけどね(笑)。

ニュースは百貨店からフリマへ

山里:やっぱり誰でも作れるようになったから、区分があいまいになったんですかね?

藤代:そうですね。あとはソーシャルメディアの登場であいまいに流通するようになっちゃった。そこを僕は「百貨店からフリマ」という言葉で説明するんですけど。
昔はニュースは百貨店でしか買えなかったけど、今はフリマで買えるようになった。フリマにはおいしいものもたくさんあるけど、時々ハズレもある。だから"目利き"が必要なんです。

山里:なるほど。でも今の世の中、ネットニュースを"百貨店"だと思って受け取る人もいるわけじゃないですか。記事のタイトルと内容から、実際の放送のトーンとかニュアンスを見ないで、「なんてひどい奴なんだ!」とみんなで攻撃しますよね。
さらに悪い循環だなと思っているのが、それでネットの人が怒っているというのを、テレビが「今この人炎上してます」って紹介するじゃないですか? なんでテレビは無視しないのかなって。無視すれば自然と刺激的なだけのニュースが減っていくと思うんですけど。そんなことないですか?

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藤代:実は結構マスメディアの責任も大きいと思っていて。去年書いた本(『ネットメディア覇権戦争』)にミドルメディアっていう概念を書いているんです。ミドルメディアとは、マスメディアとソーシャルメディアの間に位置するメディアのことで、J-CASTニュースのようなニュースサイトやまとめサイト、有名ブロガーを指します。
ここで取り上げた話題が、テレビが取り上げると、今度はそれをツイッターユーザーが拡散し、またミドルメディアが「ツイッターで●●が炎上」と、ぐるぐるまわっていると。いまはこういう仕組みです。(図2)


この流れを止めるなら、山里さんがおっしゃるようにテレビや新聞の役目かとは思うんですけど、最近ミドルメディアもだいぶ変わってきたんですよね。
実はこの「ミドルメディア」という言葉を作ったきっかけになったのは、今まさに山里さんがやってらっしゃるJ-CASTニュースなんです。J-CASTニュースの登場をみて、こういう新しいメディアができたんだ、と思って名づけたんですよ。

山里:ミドルメディアの代表がJ-CAST? 知らなかったなぁ。どういうところが新しいんですか?

藤代:J-CASTがすごく新しかったのは人々の声をニュースにしているところなんです。逆なんですよね。これまでは、どうやってマスメディアが情報を伝えているか、伝わる間に情報が歪んだりしないか、っていうことを考えられてきた。でも、"人の声"をとりあげてニュースにしてしまうのはあまりなかった。なりようがなかったんです。ソーシャルメディアもなかったですし。だって、「練乳かけるな」なんて誰が言っているんだという話になるじゃないですか。
でもSNSが出てきて、のぞいてみると確かに炎上しているし、誰かが「練乳かけるな」と言っている。言ってるんだから「言っているよね」とニュースに書く。今度はそれを見たテレビが「練乳あり?なし?」みたいな番組作っちゃう。こういうことでニュースが逆流しているんですよね。

山里:なるほど。そうか、そういう発想なんですね。僕らは文字起こしといっているけど、声をひろいあげてニュースとして昇華させているんですね。

山里vs.Jカス因縁の過去

山里:あのー。J-CASTニュース名誉編集長に就任させてもらっていうのもなんですけど、昔、J-CASTと我々芸人との相性が激烈に悪くてですね。だいたい我々がラジオで言ったことをJ-CASTが文字に起こして刺激的なタイトルを付けてラジオが追い込まれるというね(笑)。
「なんだよこの記事!」って読んでいくと、だいたいこの文字(J-CASTニュース)があって、芸人が「いつかみんなでぶっとばしてやる!」と言っていたそのJ-CASTの名誉編集長になるという(笑)。皮肉ですねー。

藤代:ボクも対外的にJ-CASTとは仲が悪いと思われてるんですよね。「『炎上メディアです』とか言ってるけど、お前たちが炎上させてるじゃないか!!」と書いたのが最初のJ-CASTとの出会いだったような(苦笑)。

山里:じゃあとんでもない2人がここに座ってるんですね(笑)。

藤代:そうなんです!でもまさに芸人さんと相性が悪かったJ-CASTがこういう企画やってるじゃないですか。フェイクニュースとか怪しいニュースがある中でJ-CASTはもう12年続けてるわけですよね。老舗感もでてきて"燃やしてるばっかじゃだめだよな"という感じは僕、受けるんですよ。つい最近まで「燃やし続けて10周年」と言って、すごい開き直りでいいなと思ってたんですけど(笑)。

山里:開き直ってますね(笑)。

藤代:J-CASTのキャラクター知ってます? 「カス丸」っていうんですけど、J-CASTってくだらないネタばっかり書くんでネット上ではJキャスをもじって「Jカス」って呼ばれてるんですよ。それをそのまんまキャラクターの名前にしたんです。

山里:(カス丸のパペット人形を見ながら)あら、意外にかわいい!

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僕も昔(カス丸に)くらったんですけど。言ってしまえばボケなんですけど、それに対して、この子(カス丸)が「山里亮太、激白」というタイトルを付けていただきまして(笑)。その燃えカスを集めてこれ(カス丸)作ったんですか?

藤代:爆笑。もうね、今日は炎上の「総本山」に乗り込んでる感じですよ!

Photo 中川容邦
(続く:【2】ネット軍団と共存するには)

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◆山里名誉編集長がカス丸と...!? この記事のダイジェスト動画もチェック!



藤代裕之氏 プロフィール
ふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。