東京大学本郷キャンパスの生協中央食堂のシンボルだった画家の故・宇佐美圭司氏の壁画「きずな」について、東大生協は、食堂リニューアルに伴って廃棄処分されたと公式サイト上で発表し、謝罪した。
壁画の所有権は生協にあったというが、宇佐美氏の遺族と今後話し合いたいとしている。
食堂のシンボルとして、40年以上も親しまれてきた
宇佐美圭司氏は、独学で絵画を修め、「走る」「投げる」「たじろぐ」「かがみ込む」といった人型のポーズを使った絵で新境地を開いた。2012年に72歳で亡くなったが、各地で回顧展が開かれている。
宇佐美氏はまた、公共施設で人型などを使った壁画も作っており、東大食堂の作品は、そのうちの1つだ。
今回の壁画は、高階秀爾名誉教授の推薦を受け、元生協職員の募金を元に1976年に宇佐美氏に制作を依頼して設置された。それ以来、40年以上にわたって学生やOB、教職員らに親しまれてきた。
ところが、中央食堂が老朽化から全面改修されることになって、東大生協のサイト「ひとことカード集」に2018年3月15日、宇佐美氏の壁画について深刻な内容のQ&Aが掲載された。
質問した組合員は、東大内部の知人から宇佐美氏の壁画が改修後に戻らないと聞いたがどうなのかとただした。これに対し、生協側は、3月末に完成する新しい食堂が吸音の壁になることなどから飾ることができず、また別の施設に移設もできないため、宇佐美氏の壁画を処分することにしたと明かした。
このやり取りが、4月26日ごろからツイッター上で話題になり、東大関係者とみられる人や画家らから疑問や批判が噴出した。
「専門家の意見を聞かず、誤った認識が共有された」
「宇佐美圭司の代表作。それが処分?」「あり得ない...!」「最高学府でこの暴挙。恥ずかしいを通り越している」「だれがどういう権限で破棄したんだろう」...
これに対し、東大生協はホームページ上で、ゴールデンウィーク明けに宇佐美氏の壁画のことについて報告するとし、「ひとことカード集」での回答については、誤った認識だったとお詫びして削除した。
そして、5月8日になって、壁画は生協職員の軽率な判断ですでに廃棄処分されており、責任を痛感し、深く反省しているとホームページ上で武川正吾理事長名によるお詫びを出した。
続く経緯説明や生協理事会室がJ-CASTニュースの取材に答えたところによると、壁画については、生協や大学施設部などでつくる中央食堂改修設計連絡会議で17年6月16日に生協側が廃棄したいと表明した。9月1日の連絡会議でこのことを再確認したうえで、同月14日に業者に依頼して処分してもらい、現在はもう形として残っていないという。
連絡会議では、絵が壁に固定されて取り外せず、切り取っても出入口を通れないという誤った認識が共有されたといい、そのまま芸術的価値などについて専門家の意見を聞かずに処分してしまったとしている。
生協には、「壁画を保存してほしかった」などと厳しい意見が電話やメールなどで多数寄せられているという。