日銀が金融政策の目標とする「物価上昇率2%」の達成時期について、「2019年度ごろ」と明示していた文言を削除した。18年4月27日の金融政策決定会合で決めた。13年3月の黒田東彦総裁就任とともに「2%目標」を打ち出してから、当初の「2年程度で2%」が達成できなくなると、達成時期の見通しを6回先送りしていた。政策の「逐次投入」を愚策とする黒田総裁が、時期の「逐次延期」を繰り返さないということだが、目標達成は当面、困難だと認めた格好で、大手紙の論調も厳しい声が目立つ。
日銀は最新の景気予測である「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を年4回公表している。2017年7月以降、「2%程度に達する時期は、2019年度ごろになる可能性が高い」としていた。今回その表現を削除した。
時期表現を削除
これについて黒田総裁は、決定会合後の記者会見で「達成期限ではなく、見通しであることを明確にするため」と説明した。確かに日銀は、黒田総裁就任当時に「政策目標」として「2年2%」を打ち出した後、これが不可能になると、以後、政策目標としては「できるだけ早期」に改めた。その一方で、展望リポートが、そこから2%に届く時期の「見通し」を示し、先送りし続けた。実際、市場は達成見通しを事実上の目標時期と受け止め、追加緩和の観測が繰り返し浮上した。そうしたリアクションを避け、政策のフリーハンドを保持したいというのが今回の時期削除だとされる。
もちろん、緩和姿勢が後退したと受け取られると、円高・株安を招くリスクがあるが、景気・物価の現状認識について黒田総裁が「物価上昇のモメンタム(勢い)は維持されており、2019年度ごろに目標に達する見通しに変わりはない」と強調したように、足元の景気は堅調で物価も上昇基調を保ち、追加緩和観測もほとんどない。そんな今こそ、時期削除のタイミングと判断したのだろう。実際、決定会合後も円高・株安に振れなかった。
ただ、物価の見通しは総裁が言うほど楽観視できない。今回の展望リポートでは、2019年度の物価上昇率の見通しを前回1月と同じ1.8%に据え置いた。これは9人の委員の「中央値」で、分布をみると、4人の委員は1.3~1.7%を予想しており、新たに示した2020年度の見通しも1.8%にとどまる。さらに言えば、19年度の民間の予測の大勢は1%程度と、日銀よりかなり低い。今回の時期削除は、20年までに2%が達成できる可能性が低いことを日銀自身が認めたようなものともいえる。
そもそも黒田総裁が「2年で2%」と打ち出したのは、人々に「物価は上がる」と思ってもらい、デフレマインド払拭を図る「期待に働きかける」狙いだった。さすがに6回も先送りすることで、かえって期待に水を差すマイナスの影響が大きくなってきたという事情もある。