2018年4月の日米首脳会談で、両国間の通商問題を協議する新たな閣僚級の枠組みを設置することが決まった。その後の協議で、その名称は「FFR」となり、6月中旬以降にスタートする見通しだ。トランプ政権は鉄鋼の高関税など「米国第一」の実行に踏み出しており、日本との協議でも「管理貿易」志向ものぞかせ、牛肉関税の引き下げなど自由貿易協定(FTA)を視野に入れる。対する安倍晋三政権は米国を環太平洋経済連携協定(TPP)に復帰させる足がかりにしたい考えだが、トランプ政権の強硬な姿勢に苦慮しているのが実態だ。
FFRは自由(英語でFree)、公正(Fair)、相互的(Reciprocal)の頭文字をとったもの。茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表がトップを務める。
米側の最終的狙いは日米FTA
新協議について日本政府サイドからは、先手を取りたいという考えから日本が持ちかけたとの説明が聞こえる。トランプ政権が求める2国間協議に応じつつ、米国をTPPに呼び戻す戦略という解説だ。
ただ、実際には日本が能動的に動ける余地は小さく、なんとか日米激突を先送りしようとしたと受け止められている。
トランプ大統領はTPP離脱を公約に掲げて当選し、実際にTPPから早々に離れた。1対1の2国間協議の方が、米国の経済力や軍事力をバックに有利な交渉ができるというのが基本姿勢だ。その根底には、多国間の自由貿易の推進という世界の潮流の中で、米国が損してきたという『逆恨み』ともいえる被害者意識がある。
そんなトランプ政権との距離感に苦慮した安倍政権は、麻生太郎・副首相兼財務相とペンス副大統領をヘッドとする「日米経済対話」の枠組みを設け、これまで2回の対話を実施している。「貿易・投資ルール」「経済・構造政策」「分野別協力」の3分野で協議する場だ。例えば、日本が輸入車の騒音・排ガス検査の簡素化といった米国車を日本に輸出しやすくする措置などは出ているが、そうした通商に関わるものは「小ネタ」ばかりで、日本としてはインフラやエネルギー分野での協力強化などに力を入れている。通商問題に集中するのを少しでも分散するというのが日本の狙いだ。
FFRは経済対話の下に置かれるが、経済対話での時間稼ぎが1年しかもたなかったといえる。
米側の最終的狙いが日米FTAにあるのは明らかだ。ライトハイザー代表は3月下旬の米議会証言で、「日本にはFTA交渉を求めている」と明言。トランプ大統領は4月18日の首脳会談での記者会見で「日本には巨額の貿易赤字がある」と改めて不満を表明。首脳会談で米側参加者がFTAに言及したという。蜜月関係とされてきた安倍首相の求めにもかかわらず、先に発動した鉄鋼、アルミ製品への高関税の対象から日本を外すことも拒否したのも、2国間の交渉カードにする考えとみられる。日本は「(FFRは)FTAに位置付けられるものではなく、予備協議でもない」(茂木敏充担当相、4月24日の自民党会合)と、火消しに努めるが、警戒感を強めている。