東京地検特捜部と警視庁が不正競争防止法違反(虚偽表示)などの疑いで神戸製鋼所の捜査を始めたことがわかった。2017年10月に発覚した神戸製鋼の品質データ改ざん問題は、刑事事件に発展する可能性が強まった。東京地検などの捜査着手については、18年4月25日付朝刊で日本経済新聞などが報道。同日夕刊で朝日、毎日、読売新聞などが追いかけた。神戸製鋼は「現在、捜査機関による捜査が行われている」と認めたうえで、「捜査内容についてコメントは差し控えるが、真摯に対応・協力していく」とのコメントを発表した。
東京地検と警視庁は既に神戸製鋼に資料の提出を求め、関係者から事情を聴いている。不正競争防止法は、不正な目的を持って商品やサービスを提供したり、虚偽の表示をしたりした場合、刑事罰を科すことができる。法人は3億円以下の罰金、違反した個人は5年以下の懲役か500万円以下の罰金となる。近年では東洋ゴム工業の免震ゴムのデータ改ざんで、大阪地検が東洋ゴム子会社を起訴し、2017年12月に罰金1000万円の有罪判決を受けたケースなどがある。
最終報告書と社長交代を発表
神戸製鋼所は18年3月6日、弁護士ら外部調査委員会の最終報告書を発表し、少なくとも1970年から不正が組織的に行われていた実態を明らかにした。不正の背景には「受注の獲得と納期の達成を至上命題とする風土」があり、「仕様を逸脱しても一定程度なら安全性の問題はないため出荷しても構わないという誤った考え方があった」と結論づけた。
この時の記者会見で川崎博也会長兼社長(当時)は引責辞任を表明。現職の執行役員3人と元職の取締役ら2人が不正に関与していたことを認め、「当社は組織風土や役員・社員の意識面で根深い問題を抱えていると言わざるをえない」と陳謝した。後任の社長には、副社長から4月1日付で山口貢氏が就任。神戸製鋼としては、3月の最終報告書と社長交代発表で、品質データ改ざん問題に一区切りをつける考えだった。昨17年秋から過熱した神戸製鋼をめぐるマスコミ報道も沈静化したかに見えた。
虚偽表示に該当する可能性
ところが東京地検と警視庁の捜査着手で、再びマスコミ各社の報道合戦が始まった。不正競争防止法の虚偽表示の公訴時効は5年のため、捜査対象は2013年以降の品質データ改ざんに絞りこまれる。神戸製鋼で問題となったアルミや銅、鉄鋼製品は自動車、航空機、新幹線などに使われているが、今のところ安全性に問題のあるケースは見つかっていない。だが、一連のデータ改ざんは虚偽表示に該当する可能性があり、東京地検などは不正を働いた工場など製造現場だけでなく、経営幹部らの関与に関心をもっているとみられる。
東京地検と警視庁は神戸製鋼で虚偽表示を立件できれば、同じく品質データ改ざん問題が発覚した三菱マテリアルや東レなどにも捜査を拡大する可能性がある。昨秋から日本を代表する素材メーカーを舞台にした品質データ改ざん問題は、刑事事件という新たな局面に入り、どこまで広がっていくのか、まだ見通せない。