ドライバーが急病などで意識を失った場合、クルマが自動的に路肩などに待避して停止する――。そんな自動運転システムが標準装備となる日は、そう遠くないかもしれない。
国土交通省は、センサーがドライバーの異常を検知して自動車を路肩に停止させるなど、事故防止に向けた自動運転のガイドラインを世界で初めて策定した。自動車メーカーはこの技術を一部で実用化しており、国交省は事故撲滅に向け、メーカーに技術開発を促すことにした。
「居眠り運転」防止にも役立つ
ガイドラインが目指すのは、実用化が進む自動運転の技術を使い、ドライバーが意識を失った際、クルマを安全に停止させることだ。専用のセンサーがドライバーの運転姿勢や目を閉じている時間、ステアリング操作の有無などを検知。意識がないと判断した場合は同乗者や歩行者らにハザードランプや警告音で知らせるとともに、一般道では車線を維持しながら減速して停止するよう求めている。高速道路では路肩に待避して停止することを目指す。ガイドラインは直接、居眠り運転対策を狙ったものではないが、ドライバーに警告音を発生することで、居眠り運転の防止にも役立つと期待される。
国交省が世界に先駆けてガイドラインを定めたのは、交通事故回避に向けた自動運転システムの研究開発が自動車メーカーで進んでいるためだ。
独ダイムラーは2016年発売の新型メルセデス・ベンツEクラスで、「万が一の場合、自動的に車線を維持しながら緩やかに停止する」という世界初の「アクティブエマージェンシーストップアシスト」と呼ばれるシステムを実用化した。これはドライバーが一定時間、ステアリング操作を行わない場合、警告灯と警告音でステアリングを握るよう促し、それでもドライバーの反応がない場合は、さらに警告音を鳴らしながら緩やかに減速し停止するというものだ。車両停止後は自動的にパーキングブレーキがかかる。
トヨタなどが一部で採用
日本メーカーではトヨタ自動車が2017年、車線内で自動的に停止する「ドライバー異常時停車支援システム」を「レクサスLS」に初めて採用した。基本的な仕組みはメルセデスと同様で、国交省のガイドラインを先取りした形となっている。トヨタの他にも、日本メーカーではガイドラインに沿った自動運転システムを実用化する研究が進み、マツダは2025年までに標準装備を目指す方針を明らかにしている。メーカー関係者によると、「緊急時の自動停止や路肩への待避は、自動運転システムの研究開発の一環で、実用化はさほど難しくない」という。
乗用車だけでなく、日野自動車、いすゞ自動車などトラック・バスメーカーでもガイドラインに沿った研究が進んでいる。ドライバーが意識を失った際、自動的に停止するのは乗用車と同じだが、バスの場合、異常を察知した乗客が車内の押しボタンでバスを安全に停止させるシステムの研究が進んでいる。緊急時に押しボタンでバスを自動停止させるシステムの実用化はこれからだが、完全自動運転が実現する前にバスには標準装備となる日がやってきそうだ。