放送法4条撤廃論、安倍政権の陰りが議論に影響

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   放送番組の「政治的公平」などを定めた放送法4条の撤廃論がにわかに注目を集めている。

   「震源地」は安倍晋三首相。森友・加計問題などでマスコミの批判的報道へのいら立ちを強めているのも、理由とされる。放送界、新聞界などから反対の声が沸き起こる中、森友文書改竄など不祥事も相次ぎ、政権側のトーンはダウンしているが、放送とネットの境界があいまい化しているという時代背景もあり、どのように議論が進むか、目が離せない。

  • 放送法4条撤廃論は分が悪くなりつつある
    放送法4条撤廃論は分が悪くなりつつある
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安倍首相が火をつける

   放送法4条は、放送事業者が国内外で放送する番組の編集について定めた条文で、

(1)公安及び善良な風俗を害しないこと、
(2)政治的に公平であること、
(3)報道は事実をまげないですること、
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること

などを求めている。

   この条文は、一般に、倫理規範を示すものと理解され、放送界は「放送倫理・番組向上機構(BPO)」という第三者機関を作り、自主的に苦情などに対応しており、審査の結果、番組に人権侵害などがあるとなれば、是正勧告などを出す自主規制が定着している。最近では、沖縄問題の扱った東京メトロポリタンテレビジョン(東京MXテレビ)の番組「ニュース女子」について、BPOが、放送倫理違反や人権侵害を指摘したのは記憶に新しい。

   この4条見直しに火をつけたのは安倍首相だった。1月22日、施政方針演説で「通信と放送が融合する中で、国民の共有財産である電波の有効利用に向けて、大胆な改革を進めてまいります」と表明、ネット企業などが多い新経連(三木谷浩史代表理事)の31日の会合で、「インターネットテレビは放送法の規制はかからないが、見ている人には地上波などと全く同じだ。法体系が追いついていない」と、踏み込んだ。

   この時点で公式に放送法4条の見直し・撤廃論が政府側からは出されていたわけではないが、水面下では動き始めていた。3月上旬、民放幹部との会食の場で安倍首相が4条撤廃を持ち出し、民放幹部が反発して激論になったとされる。その後、経済産業省主導でまとめられたとされる4条撤廃を含む改革案が永田町・霞が関で出回り始めたという。

民放は反発、読売新聞も異例の安倍政権批判

   話が表舞台に現れたのは、3月17日の読売新聞朝刊だった。1面に3段見出しで「放送・ネット垣根撤廃 首相方針 放送の質低下懸念も」と載せ、2、3面見開きで「放送 信頼を失う恐れ 『公平』規定を撤廃 フェイクニュース危惧」(3面)、「首相、批判報道に不満か」(2面)と、否定的に見出しを連ねた。特に目を引いたのが2面の記事で、安倍政権支持の論調が目立つ読売が、首相を批判するのは異例。その後、その他の各紙も続々と報道したが、論調は批判一色。「民放事業者が不要と言っているのに等しい」(大久保好男・日本テレビ社長)といった民放の反発を反映したものだ。

   政府側の放送制度見直し論の背景にあるのが、インターネットでの動画配信サービスの急速な普及で放送と通信の垣根が急速に低下していること。ネット企業の放送市場への新規参入促進などでコンテンツビジネスを活性化し、グローバル産業に育てるといった「産業論」が根底にある。放送法4条のほか、放送局への外国資本の出資規制の緩和・撤廃、番組制作部門と放送設備管理部門の「ソフトとハードの分離」なども視野に入っている。

   反対する民放界は、公共性が問われる放送を通信やネットと同様のビジネスベースで捉えるべきでないという立場だ。

   こうした双方の大義名分には、それぞれ問題がある。

   政府側の規制緩和論への最大の批判が、マスコミがこぞって指摘するように、公正な報道を害する懸念だ。実際、安倍政権になって、2014年の総選挙の際の報道に、首相自身が不満を口にし、自民党がNHKと民放各社に「公平中立、公正」な選挙報道を求める異例の要望書を出した。安倍首相自身がネット世論を気にし、選挙の際などネットテレビに好んで出演するが、政党間の公平な取り扱いが重視される放送のような規制がない「利点」を十分に知っているといわれる。

   これに対し、民放の側も、公正な放送を守るという大義名分の一方、規制緩和で既得権が侵されるのを恐れている側面も指摘される。

4条は政府、局側双方にとって「両刃の剣」

   今のところ、この議論、特に4条撤廃については政府側の分が悪い。この間、政府案が「報道へのけん制」との受け止めが広がり、与党からも「公正のタガが外れて何をやってもいいとなるとかえって国民の信頼を失う」(4月4日、山口那津男・公明党代表)、「言論、民主主義にかかわる。慎重に議論すべきだ」(同、岸田文雄・自民党政調会長)など懸念の声が相次いでいる。閣内でも所管する野田聖子総務相が「(放送法4条を)撤廃した場合には公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加するなどの可能性が考えられる」(3月22日の衆院総務委員会)などと、公然と反対論を展開している。

   ただ、4条は政府側、民放側双方にとって、「両刃の剣」でもある。

   2016年2月には高市早苗総務相(当時)が「政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波を停止できる」と公言。政権に批判的な報道への牽制と批判されたが、その後のニュースキャスターの交代の裏に、政権側の圧力があったといわれる。政府には4条が放送への介入の根拠になりえるだけに、撤廃は「宝刀」を失う面もある。

   逆に民放にとっては、文字通り、報道に介入される恐れが常にある。4条は倫理規定だから権力が内容に介入するのはおかしいといっても、政府が介入してくる論拠になりかねない条文の擁護は、論理矛盾ともいえる。

   この問題を検討する場は規制改革推進会議(議長・太田弘子政策研究大学院大学教授)で、4月16日の会議で、これまでWGが進めてきたヒアリングを基に、放送制度見直しの論点をまとめた資料が準備されたが、そこには「4条」の文字はなかった。「安倍一強が陰り、4条撤廃に批判が強く、載せられなかった」(全国紙政治部デスク)との見方が強い。

   米国では放送局に対し、賛否両論ある問題で双方を公平に扱うように求めた「フェアネス・ドクトリン(公平原則)」が1987年に撤廃され、最近はトランプ政権擁護の同一の文言を系列全局で一斉に流す放送局が登場するなど、問題になっている。「フェイクニュースが世界的に広がるなか、放送への信頼を失墜させる改革に乗り出す意味があるのか」(読売3月25日社説)との疑問が強い中、規制改革推進会議は、放送以外の分野を含め、6月に改革案をまとめ、首相に提出する。放送に関してどのような結論になるか、現時点では見通せないが、森友・加計・セクハラ問題を抱える安倍政権自体の動向も絡み、議論の行方が注目される。

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