4条は政府、局側双方にとって「両刃の剣」
今のところ、この議論、特に4条撤廃については政府側の分が悪い。この間、政府案が「報道へのけん制」との受け止めが広がり、与党からも「公正のタガが外れて何をやってもいいとなるとかえって国民の信頼を失う」(4月4日、山口那津男・公明党代表)、「言論、民主主義にかかわる。慎重に議論すべきだ」(同、岸田文雄・自民党政調会長)など懸念の声が相次いでいる。閣内でも所管する野田聖子総務相が「(放送法4条を)撤廃した場合には公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加するなどの可能性が考えられる」(3月22日の衆院総務委員会)などと、公然と反対論を展開している。
ただ、4条は政府側、民放側双方にとって、「両刃の剣」でもある。
2016年2月には高市早苗総務相(当時)が「政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波を停止できる」と公言。政権に批判的な報道への牽制と批判されたが、その後のニュースキャスターの交代の裏に、政権側の圧力があったといわれる。政府には4条が放送への介入の根拠になりえるだけに、撤廃は「宝刀」を失う面もある。
逆に民放にとっては、文字通り、報道に介入される恐れが常にある。4条は倫理規定だから権力が内容に介入するのはおかしいといっても、政府が介入してくる論拠になりかねない条文の擁護は、論理矛盾ともいえる。
この問題を検討する場は規制改革推進会議(議長・太田弘子政策研究大学院大学教授)で、4月16日の会議で、これまでWGが進めてきたヒアリングを基に、放送制度見直しの論点をまとめた資料が準備されたが、そこには「4条」の文字はなかった。「安倍一強が陰り、4条撤廃に批判が強く、載せられなかった」(全国紙政治部デスク)との見方が強い。
米国では放送局に対し、賛否両論ある問題で双方を公平に扱うように求めた「フェアネス・ドクトリン(公平原則)」が1987年に撤廃され、最近はトランプ政権擁護の同一の文言を系列全局で一斉に流す放送局が登場するなど、問題になっている。「フェイクニュースが世界的に広がるなか、放送への信頼を失墜させる改革に乗り出す意味があるのか」(読売3月25日社説)との疑問が強い中、規制改革推進会議は、放送以外の分野を含め、6月に改革案をまとめ、首相に提出する。放送に関してどのような結論になるか、現時点では見通せないが、森友・加計・セクハラ問題を抱える安倍政権自体の動向も絡み、議論の行方が注目される。