「鉄人」と呼ばれた元プロ野球選手の衣笠祥雄さんは、球界きっての音楽通としても有名だった。
ジャズやクラシック、カントリーから最新のポップスまで、幅広いジャンルの洋楽を愛していた。2007年からは、冠ラジオ番組「鉄人ミュージック」(TBSラジオ、不定期放送)もスタート。自らセレクトした楽曲を流しながら、音楽談義に華を咲かせていた。
ジャニス・ジョプリンに聞き入った現役時代
衣笠さんは、現役時代から音楽が好きだった。リラックスや気分転換のため、移動中や遠征先のホテルでジャズなどを聴いていたという。
1965年にカープへ入団した直後の衣笠さんの様子を振り返ったスポーツ報知の記事(2003年12月11日付)では、「ニニ・ロッソやコルトレーンを聴きに、米国兵の多いジャズ・バーへも通った」と伝えている。自ら演奏に挑戦しようと、トランペットを買ったこともあったそうだ。
1986年放送のNHK特番「17年間休まなかった男 -衣笠祥雄の野球人生-」には、ホテルの自室にカセットデッキを持ち込み、ジャニス・ジョプリンがカヴァーしたジャズのスタンダード・ナンバー「サマータイム」に聞き入る姿が残っている。
また、アナウンサーの辻よしなりさんのブログ(12年3月10日付け)では、ラジオ番組で共演した衣笠さんが、
「音楽の存在が、前へ行けない時の応援歌だった」
と、現役時代を振り返りながら語った――そんなエピソードも紹介されている。
ちなみに、この辻さんのブログによれば、衣笠さんが音楽の魅力に目覚めたのは、学生時代にソウル歌手のレイ・チャールズの歌声を聞いたことがきっかけだったという。
レディー・ガガやグリーン・デイも愛聴
2007年には、衣笠さんが音楽について語る「鉄人ミュージック」という不定期特番がTBSラジオでスタート。衣笠さんがDJとしてお気に入りの曲を流しながら、音楽や野球について軽妙なトークを繰り広げる内容だ。
過去に番組で流れた衣笠さんのプレイリストをみると、レディー・ガガやブルーノ・マーズらアメリカの最新のポップスもあれば、ローリング・ストーンズやボン・ジョヴィなどのロックも。ジャズやR&B、キューバ音楽など様々なジャンルからチョイスしており、音楽への深い造詣がうかがえる選曲だ。
また、2015年10月21日放送の「ザ・トップ5」(TBSラジオ)にゲスト出演した際には、音楽の趣味が広がったのは現役引退後だとして、
「10年くらい前ですかね。R&Bから音楽に入って、そのままずーっと来ていたんですけど、最近はカントリーを聞くようになって、えらい幅が広がりました。こんなに広げたら、あとはどう畳めばいいのって(笑)」
と、いかにも楽しげに語っている。
また、同じ番組の中では、当時68歳の衣笠さんが「もし自分が現役だったら、どんな入場曲を選ぶ?」というテーマで楽曲をチョイス。そこで選んだのは、米パンクバンドのグリーン・デイが2009年にリリースした「21 guns」という激しい1曲だった。
「かなり意外です!」と驚くパーソナリティの男性に対して、衣笠さんは「かなりノリが良いんですよ」と笑う。サビのリズムが好きなのだそうだ。グリーン・デイは他の曲も気に入っているそうで、ヒット曲「アメリカン・イディオット」も好きだとしていた。
音楽を語る衣笠さんは「少年のような...」
このように、野球だけでなく音楽も愛し続けてきた衣笠さん。18年4月24日の訃報を受けて、「鉄人ミュージック」でアシスタントを務めてきたアナウンサーの宮崎瑠依さんは同日のツイッターで、
「衣笠さんはいつも大好きなカントリーミュージックについて熱く語り、その流れでいつのまにかプロ野球について語っている。番組アシスタントを務める私は、そんな少年のような衣笠さんの表情を独り占めしていたんです」
と収録中の思い出を振り返った。その上で、「衣笠さんに教えてもらった数々の音楽をこれからもずっと聴き続けます」とも呟いていた。