米国で行われた日米首脳会談で、トランプ大統領は日本側の意向と違って、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を主張し、日本側に二か国間貿易の協議を迫った。しかし、その根拠として大統領が主張している対日貿易の赤字額が違っているとの指摘があった。
政治家の発言などの事実関係を検証する「ファクトチェック」を専門とする米国のウェブサイト「ポリティファクト」事務局長のアーロン・シャロックマン氏が2018年4月22日に都内で講演し、指摘した。
貿易赤字額「年690億ドルから1000億ドル規模」本当か
ポリティファクトは07年、フロリダ州の地方紙「タンパ・ベイ・タイムズ」を母体にスタート。08年には、同年に行われた大統領選候補者をめぐるファクトチェックが評価され、優れた報道に贈られる「ピュリッツァー賞」をオンラインメディアとしては初めて受賞している。これまでに行ったファクトチェックは約1万5000件に及ぶ。その一例として、シャロックマン氏は、日米首脳会談後の共同会見のトランプ氏の発言をめぐるファクトチェックの手法を紹介した。
トランプ氏は18年4月18日午後(米東部時間、日本時間19日)、別荘があるフロリダ州パームビーチで開いた会見で、
「米国は多額の対日貿易赤字を抱えている。その額は年690億ドルから1000億ドル規模だ。これはどう見ても多い」
と発言し、
「TPPには戻りたくないが、拒否できない取引の内容が示されれば考える。しかし、2国間協議の方を好む」
と続けた。この発言で、TPP復帰を求める日本との溝が浮き彫りになったと考えられている。
「モノ」だけなら「ギリギリOK」に見えるが...
ポリティファクトは、「TPPに戻りたくない」という発言の前提になっている貿易赤字の額「年690億ドルから1000億ドル」に着目した。
ポリティファクトがホワイトハウスに問い合わせたところ、この数字の根拠になったのは国勢調査局の統計だ。それによると、モノの対日貿易赤字額はここ数年670~690億ドル程度で推移しており、17年は688億ドルだった。この時点では、
「690億という数字はギリギリOKかもしれないが、1000億となると、あまりに違っている」
という評価だが、専門家に意見を聞いたところ、さらに発言の信ぴょう性は下がった。
一般的に貿易額は「モノ」だけではなく、金融、保険、ビジネスコンサルティングといった「サービス」を含めて計測するためだ。国勢調査局の「モノとサービス」の統計を見ると、対日赤字は100億ドル規模で減少し、全体としての対日貿易赤字は17年は570億ドル程度だ。
ポリティファクトでは、政治家の発言を「真実」から「大ウソ」の6段階で評価。このトランプ氏の発言は、
「確かに貿易赤字があり、しかもそれはある程度の金額だ。690億ドルには根拠があったが、他はまるで意味がないものだった」
などとして、上から3番目の「半分真実」だと評価した。ただ、観客は総じてトランプ氏の発言を低く評価し、シャロックマン氏は、さらに1段階低い「ほとんどウソ」だと判断してもよかったかもしれない、と述べた。
シャロックマン氏の講演は、ファクトチェックを支援する団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」の設立を記念するシンポジウムの一環として行われた。講演後のパネルディスカッションでは、元TBSアナウンサーで白鴎大学客員教授・下村健一さんらが、ファクトチェックや、メディアを読み解く「メディアリテラシー」など、フェイクニュースの拡散を防ぐための取り組みについて議論した。