2018年4月12日発売の「週刊新潮」(4月19日号)に端を発した、財務省の福田淳一事務次官によるセクハラ疑惑。両者の見解は19日現在もなお、食い違ったままだが、ここで報道当初から存在する1つの疑問を検証する。
なぜ、セクハラ被害を受けたテレビ朝日の女性記者は週刊新潮に駆け込んだのか。「文春砲」の言葉がすっかり定着した「週刊文春」でなかったのはなぜか。元週刊誌編集長に見解をたずねると、意外な答えが――。
「文春に渡せば後々...」
テレビ朝日が2018年4月19日未明に発表したコメントによると、女性記者は約1年半前から取材目的で福田氏と1対1で会食し、繰り返しセクハラの被害を受け、身を守るために会話の録音を始めた。上司に報告すると、「(この件の)報道は難しい」と言われ、週刊新潮に連絡。録音の一部を提供した。
録音のやり取りが明るみとなったのは、4月12日発売の同誌だ。19日発売の誌面でさらに詳細な会話の模様を報じた。福田氏はこれを受け、18日夜に辞任を発表。ただ、インターネット上の一部では、ある疑問の声も渦巻いていた。
それはなぜ、記者は「週刊文春」でなく週刊新潮に録音を渡したのか――。文春の印刷証明付き部数は64.3万部で、週刊現代の46.2万部や、新潮の43.4万部をはるかにしのぐ(2017年10~12月期。日本雑誌協会の統計)。「文春砲」なる愛称で知られるように、週刊誌で最大の影響力を持つことは言うまでもない。
この点について、「週刊現代」元編集長の元木昌彦氏は19日のJ-CASTニュースの取材に「あくまで推測の域を出ませんが」と前置きし、こう答える。
「テレビ朝日は、朝日新聞と同じ系列の会社です。文春と朝日は昔から対立関係にあり、『朝日叩き』は伝統のようなもの。文春、新潮のどちらに録音を提供するか考えたでしょうが、もし文春に渡せば後々、『どうして文春へ持って行ったのか』と言われかねない。1つの忖度があったのかもしれません」
伊藤詩織さんの報道も「影響したかも」
元木氏はさらに「文春と新潮では、記事の書き方や取材のやり方にも違いがあります」とコメント。その上で、
「文春はしっかりと裏付けを取り、色々な要素を盛り込もうとする一方、新潮はどちらかといえばストレートに書こうとする。新潮に渡せば、福田氏がどんな発言を繰り返しているかに焦点を絞る、と推測できます。文春ではテレビ朝日(の記者だ)とにおわせる記述が出てくる可能性も高まる、と考えたのかもしれない」
と述べた。
元木氏は「文春の読者の半分くらいは女性、それも若い人が多い。新潮は多くて2割くらいだ」と読者層の違いも指摘。「だから決して文春に持って行ってもおかしくない」とコメントした上で、そうならなかった理由について
「新潮は2017年、ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者から性暴力被害を受けたと報じました。読者の反響も大きかったし、かなりキツイ書き方をしていたから、それも影響したのかもしれません」
と述べていた。
ちなみに福田氏は4月19日朝、同日発売の新潮報道を受け、改めて「全体を申し上げれば、そういうの(セクハラ発言)に該当しないのはわかるはず」とセクハラ行為を否定した。同誌編集部はこれを受け、J-CASTニュースの取材に
「週刊新潮が報じた、福田淳一財務事務次官のセクハラ行為に関する記事は、すべて事実に基づくものです。本誌では、被害現場の飲食店を特定するなど、様々な検証を経たうえで真実と確信し、報道しました。この期に及んでも福田次官がセクハラ行為を否定していることに驚きを禁じ得ません。テレビ朝日の会見内容については承知しておりますが、取材の経過や取材源の秘匿に関わることですので、コメントは差し控えさせていただきます」
とコメントを発表した。