アフリカ・マリ出身の京都精華大のウスビ・サコ学長(51)が、「京ことば」についてのエピソードを米ニューヨーク・タイムズ紙の取材に語ったところ、ネット上で大きな話題になっている。
サコ学長は、1991年に来日し、京大大学院の博士課程で建築学を学んだ。2001年から京都精華大で教べんを執り、18年4月から学長をしている。
ニューヨーク・タイムズ紙が記事で紹介
サコ学長のエピソードは、ニューヨーク・タイムズ紙の4月13日付ウェブ版英語記事に載った。
サコ学長は、就任後に学生たちの前で「君たちは家を出たが、ここも君たちの家だ」などと歓迎の言葉を述べたと記事で伝えられ、続いて、その出自についても紹介された。
その中で、サコ学長は、京都の文化になじむのに苦労したことが明かされた。京都では、言ったことと逆の意味になることがあるというのだ。
サコ学長は若いころ、自分のアパートで何回かパーティーを開いたことがある。すると、近所の人たちは、「お友達といつも楽しそうにしてはって、うらやましおす」といったような言葉をサコ学長にかけた。そして、サコ学長が近所の人たちを次のパーティーに誘ったところ、なんと警察が呼ばれたというのだ。
警察からは、「騒がしすぎる」と注意を受けた。しかし、サコ学長は、「でも、近所の人たちは、それがいいって言ってたんですよ」と必死になって説明したという。その後、サコ学長は、感受性を失わないようにしながらも、京都の文化を深く理解する努力を日々続けているそうだ。
このエピソードは、ツイッターやネット掲示板で大きな話題になり、様々な意見が書き込まれている。
京都以外の出身者や外国人には、あまりにも分かりにくいとして、疑問の声が次々に出た。
「古いタイプの人は、逆のことを言うことがある」
「京都人のイヤミって、日本人だって他県人は理解しがたいからなあ」「相手がそれに気付かないなら元も子もない」「そう言う時ははっきりうるさいと言えばいい」「これ本当に褒めたい時なんて言うんだろう」...
一方、京都ならではの文化だとして、理解を示す向きも多い。
「京都人のあからさまなイヤミは伝統ある生きる知恵なんじゃないか」「『うるさいよ』と言われてることを雰囲気で察しなきゃ」「直情的に罵倒するより平和的でいいかも」「表立った直接対決は避けたいから悟れって事かと」といったものだ。
昔ながらの「京ことば」の講座などを行っている「京ことばの会」の中島さよ子代表は4月16日、「昔から京都人に言われていることですね」とJ-CASTニュースの取材に話した。
「若い人はあまりないと思いますが、古いタイプの人は、直接『うるさい』と言えず、逆のことを言ってしまうことはあるようです。それは、長い歴史に培われた戦国時代からの文化でしょうね。都に次々に侵入してくる人たちから身を守るため、直接ではなく遠回しに言うことが身に着いたのだと思います」
京都人が来客に「ぶぶ漬け(お茶漬け)でもどうどす?」と言うと、それは食事の時間なので遠慮してほしいとの意味で、京都人の気質を示す言葉として使われるという。ただ、落語から取った言葉で、実際にはあまり使われていないそうだ。
サコ学長のエピソードについて、中島さんは、「お国の違う人に遠回しに言っても通じないので、本当は『静かにして頂けますか?』と言った方がよかったですね」とした。
サコ学長にも、学長室を通じて取材しようとしたが、会議中などとして16日中には話が聞けなかった。