2018年5~6月にも開かれるとみられる米朝首脳会談の輪郭が、少しずつ明らかになってきた。訪米中の安倍晋三首相は4月17日(現地時間、日本時間18日未明)、フロリダ州パームビーチにある米トランプ大統領の別荘で首相会談に臨み、トランプ氏は米朝会談で日本人拉致問題を提起する意向を明らかにした。
今後焦点になりそうなのが開催地だ。米国以外の「5か所」を検討しているといい、東南アジアや欧州が取りざたされている。ただ、北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩委員長が指導者として外遊したのは中国・北京のみ。スイスに留学した以外は「遠出」は皆無と言ってよく、正恩氏の「足」となる政府専用機の問題など、開催地の決定には様々なハードルがありそうだ。
ストックホルム?ジュネーブ?ウランバートル?ジャカルタ?
トランプ氏は記者団を前に、6月上旬までに会談を実現したい考えを示し、
「きわめて高いレベルで北朝鮮と直接の会話(talks)があった」
とも明かした。米ワシントン・ポスト紙やブルームバーグは、ポンペオ中央情報局(CIA)長官がトランプ氏の特使として極秘訪朝し、金正恩氏と会談したと伝えた。ポンペオ氏は、トランプ氏が解任されたティラーソン国務長官の後任に指名した人物で、首脳会談の地ならしを目的に訪朝したとみられる。
過去の「きわめて高いレベル」での米朝接触は、00年に現職閣僚としてオルブライト国務長官が訪朝して金正日氏と会談したほか、クラッパー国家情報長官(当時)が14年、拘束されていた米国人2人の釈放を目的に、オバマ大統領の特使として訪朝した例がある。
トランプ氏は開催地について5か所を検討中だとした上で、その5か所に米国は含まれないとした。そういった中で、早くも開催地をめぐる様々な観測が出ている。聯合ニュースによると、青瓦台(大統領府)関係者は17日の時点で、
「板門店で開かれれば、(1989年に米ソが行い、東西冷戦が終結した)マルタ首脳会談よりも、はるかに象徴的」
と期待感を示したが、ワシントン・ポストは米当局者の話として、
「朝鮮半島以外の、東南アジアを含むアジアや欧州を候補地として視野に入れている」
と報じ、板門店説には否定的だ。その逆がロイター通信で、
「平壌、北朝鮮と韓国の間の非武装地帯、ストックホルム、ジュネーブ、モンゴル」
を挙げた。
政府専用機ではEUに乗り入れできない
これらの都市は、いずれも北朝鮮が何らかの形で日本や米国の外交的やり取りがあった場所だ。例えばストックホルムでは、14年に北朝鮮が拉致被害者の再調査を約束した日朝合意が結ばれた。ジュネーブではあらゆる国際会議が開かれ、北朝鮮も拠点を置いている。モンゴル・ウランバートルでは、14年に拉致被害者の横田めぐみさんの両親、横田滋さん・早紀江さん夫妻と、めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんとが対面している。
拉致被害者の曽我ひとみさんと、北朝鮮に残されたままだった夫のジェンキンスさんら一家が04年に対面を果たしたのは、インドネシア・ジャカルタだった。当時の報道によると、(1)日朝両国の大使館がある(2)医療設備が整っており、体調面が不安視されていたジェンキンスさんをサポートする体制が取りやすかった、などが重視されたという。米国大使館はジャカルタにもあり、米朝が接触しやすい環境だと言えそうだ。
ただ、問題となるのが正恩氏の「足」だ。北朝鮮は、国営高麗航空が所有する旧ソ連製のイリューシン62M型機を政府専用機として使用している。1960年代に開発された旧式機だ。18年2月の平昌五輪の際は、韓国・仁川国際空港にも飛来した。米朝首脳会談の際にも北朝鮮は政府専用機の使用を検討するとみられるが、高麗航空の同型機は安全基準を満たしていないとして、欧州連合(EU)域内の乗り入れを禁じられている。
航続距離も問題になりそうだ。イリューシン62M型機の航続距離は、貨物などを最大限積んだ場合で約7800キロ。平壌からジャカルタまでは約5400キロで比較的余裕があるが、ストックホルムとジュネーブはそれぞれ7200キロ、8800キロで、かなり苦しくなってくる。EUに乗り入れられる新しい機材を中国やロシアからチャーターする可能性もあるが、盗聴対策や指導者としての体面の問題など、クリアすべき課題は残る。