ハリルホジッチ監督はフランス語を話してきたが、母国語ではない。田嶋幸三・日本サッカー協会(JFA)会長は解任理由に「選手とのコミュニケーションの問題」をあげたが、フランス語を習得しているGK川島永嗣(メッス=ベルギー)はブログで、言語に触れて「後悔の念」に駆られていることを明かした。
サッカー解説の中西哲生氏はラジオ番組で、このフランス語が「選手にも通訳にも伝わり切らなかった」部分があると指摘している。
「セルビア語が母国語だが、今回フランス語でやってきた」
川島はハリルホジッチ解任が発表された翌日の2018年4月10日にブログを更新し、「心から残念に思う」と繰り返した。「チームで一番の責任を背負わされるのは監督かもしれない。でも、ピッチの上で勝利のために足を動かせるのは選手でしかない」として、
「今回の出来事を受けて、自分にもっとできることがあったのではないかと、後悔の念で頭が一杯だ。フランス語で彼が放つ言葉とその裏にどんな意図があるのか、それが分かっていたからなおさらだ」
と無念をつづった。
川島は多言語に堪能で、ベルギーの公用語の1つであるフランス語も習得している。通訳を介さずハリルホジッチ監督の細かいニュアンスまで感じ取っていたようだ。
中西哲生氏は10日放送の「クロノス」(TOKYO FM)で、通訳にまで触れながら言語の問題を指摘している。
「日本サッカー協会(JFA)としては、今後の監督の人選として日本人監督を視野に入れないといけないと思う。ハリルホジッチ監督はセルビア語が母国語だが、今回フランス語でやってきた。結局そのフランス語は、本人が希望したにもかかわらず、選手にも通訳にも伝わり切らなかった、もしくはボキャブラリーが少なくてうまく説明できなかった部分が実際あった。言語の齟齬は、日本人監督なら軽減できるのは当然ある」
フランス語とその通訳をめぐっては、ツイッターの一部でも、
「ハリルの解任理由に、選手たちとの溝云々とあるけど、それ認識してたはずの西野(朗)やその通訳、協会はなにか対策したの?」
「実は悪かったのはハリル氏の戦術や人柄じゃなくて彼の意図を正確に汲めない通訳だったってオチだったりして」
といった声もあがっている。
3年前から「(ハリルホジッチ監督の)フランス語は怪しい」指摘
ハリルホジッチ監督の通訳は、樋渡群(ひわたし・ぐん)氏と羽生直行氏の2人体制をとってきた。樋渡氏はフランスの名門パリ・サンジェルマンU-12(12歳以下)チームなどで監督経験があり、本業は指導者。一方、羽生氏は前任のハビエル・アギーレ監督時代から通訳をつとめたエキスパートだ。
熱くなりやすいハリルホジッチ監督を制御するのは容易ではなかったようだ。監督のイライラが募っている試合後のインタビューでは、通訳中に勇んで次の言葉を続けることもしばしばあった。17年8月のオーストラリア戦では、タッチラインを割った判定に納得のいかない監督が激高。鎮めようとした樋渡氏を、突き飛ばして睨みつけるシーンもあった。
4月10日付のスポーツニッポンは、「(コミュニケーション不足の)最大の要因は指揮官が第一言語のセルビア語ではなく、フランス語を使ったことだろう」と指摘した。「語彙に乏しく、フランス人コーチから『子供のような話し方』と陰でからかわれていた」という。
ハリルホジッチ監督が就任した15年3月当時から言及していた人物もいる。02年日韓W杯を率いたフィリップ・トルシエ監督(フランス人)の通訳をつとめたフローラン・ダバディ氏が15年3月7日、ツイッターで「(ハリルホジッチ監督の)フランス語は怪しい」とやや冗談交じりに投稿していたのだ。「可愛いかもしれません。28歳にフランスに渡ってから初めて勉強したので、決してペラペラではないが、一生懸命身につけた感じです」とし、「訛り」もあるとの印象を述べていた。