愛媛県今治市の刑務所から受刑者の男が逃走し、丸2日が経とうとしている2018年4月10日午後時点でも警察が捜索を続けている。
この男が収容されていた刑務所は、「塀のない刑務所」として知られる。模範的な受刑者のみが入ることができる施設で、11年には「50年間にわたり受刑者の円滑な社会復帰を支え、矯正行政への国民の信頼を高めることに貢献した」として、人事院から表彰されていた。
2011年には刑務官が「人事院総裁賞」職域部門を受賞
逃走後に指名手配されているのは、今治市の松山刑務所大井造船作業場に盗みなどの罪で服役している平尾龍磨受刑者(27)。18年4月8日18時頃に逃走したとみられ、その後、瀬戸内海を挟んだ広島県尾道市の向島で、靴と、乗り捨てたとみられる車が発見されている。
平尾受刑者は15年6月に福岡刑務所から松山刑務所に移送。松山刑務所では模範的な受刑者と認定され、17年12月に大井造船作業場に収容された。
この作業場は1961年、造船メーカーの「新来島どっく」の工場敷地内に受刑者の泊まり込み用施設を設置したのが始まり。国内初の本格的な開放処遇を実現したことで知られ、11年には「人事院総裁賞」の職域部門を受賞している。受賞時に人事院のウェブサイトに掲載された施設紹介や、人権団体のアムネスティ日本が15年に見学した際の報告文書からは、受刑者は通常の「刑務所」とはかなり違った暮らしを送っていることが分かる。
「出所者の再犯率は他の刑務所に比べて非常に低い」
まず、受刑者が住む場所は「寮」。鍵はかかっておらず、窓には鉄格子もない。20人程度が暮らしており、作業を行う造船所では、船体の一部になる部材の溶接作業、ガス切断、グラインダー作業などを造船所の社員と一緒に行う。民間の現場監督者は受刑者を部下として、一般社員は受刑者を同僚として接するといい、人事院ウェブサイトによると、造船所の社員は
「受刑者の謙虚な態度に感嘆し、部下として、あるいは同僚として受刑者を温かく見守ってくれています」
という。
アムネスティの文書では、寮長(刑務官)の話として、造船所で働く受刑者について
「厳しい選考に合格した優秀な人達」
「資格取得の勉強が充実している。ほとんどの人が仮釈放され、8割が鉄工の仕事、2割は飲食等の仕事に就く」
「出所者の再犯率は他の刑務所に比べて非常に低い」
といった肯定的な話が多く紹介される一方で、過去に約20人が脱走し、
「『妻に会いたい、子供に会いたい』などの理由から脱走した人もいる」
ともある。さらに、刑務官は12人で24時間体制をカバーし、
「仕事が厳しいので平均で2年交代、夜勤のときは見回りはしない」
という。
上川法相「全国の開放処遇のあり方について検討・検証」
こういった体制は受刑者と刑務官との信頼関係の上で成り立ってきた面もありそうだが、今回の事案で、それが揺らぐことになりそうだ。
上川陽子法相は4月10日の記者会見で、
「国民の皆様に多大なご迷惑をおかけしたことを心から深くお詫び申し上げる」
などと陳謝した上で、いわゆる「塀のない刑務所」の警備体制を見直す委員会を立ち上げる考えを明らかにしている。
「この案件のみならず、全国の開放処遇のあり方についても、しっかりと検討・検証し、対応策について十全に尽くしていきたい」