トヨタ自動車とスズキが、インドで相互OEM(相手先ブランドによる生産)供給を始める。2018年3月29日、発表した。急成長するインド市場で、スズキはシェア4割を超えるトップ企業だが、トヨタはシェア3%と伸び悩む。トヨタはスズキの力を借りて巨大市場を切り込み、スズキは車種を増やして首位固めを狙う。
スズキからトヨタへは小型車「バレーノ」と多目的スポーツ車「ビターラ・ブレッツァ」を、トヨタからスズキへは「カローラ」のガソリン車とハイブリッド車をそれぞれ供給する。供給を受けた車両はトヨタ、スズキ両社の現地子会社が、それぞれの販売網を通じて売っていく。具体的な車両価格や車両スペックなどの詳細は今後詰める。
ユーザーの好みの変化
現状、スズキがインドで他社の力を借りる必要はまったくない。1983年にライバルに先駆けて現地生産をスタートさせ、低価格な小型車でインド市場を席巻。「2台に1台がスズキ車」といわれるほど、圧倒的な存在感を放っている。
2017年のインドの新車販売台数は約401万台とドイツを抜き、中国、米国、日本に次ぐ4位に浮上した。あと数年で日本を抜くのは間違いない。急成長する中でも、スズキはきっちりとシェアを確保しており、短期的にそのポジションが揺らぐことはないとみられている。
だが中長期的には、従来のやり方だけで今の地位を確保できる保証はない。大きな環境変化の一つはユーザーの好みの変化だ。経済発展に伴って、スズキが得意とする「低価格な小型車」以外の車種に消費者の目が向く可能性がある。トヨタのカローラを上級モデルとしてそろえておいて損はない。
様々な分野で協業を検討する方針
もう一つはインド政府の電気自動車(EV)推進策だ。2030年に新車販売の30%をEVにする方針を示している。スズキが単独で対応するには荷が重く、17年11月にはトヨタからEVに関する技術支援を受けることで合意した。20年ごろにインド市場向けのEVを投入する計画だ。今回のOEM相互供給は、EVの技術支援と直接関係はないが、EVで円滑に支援を受けるためにOEM相互供給で関係を深めておきたいとの思惑もありそうだ。
一方、トヨタはインドにおいては「弱小メーカー」。もともと日本、北米など先進国向けに強く、新興国に特化した「安い小型車」作りは苦手。これまではインドで弱小でも、他地域かカバーしていたから問題はなかった。
だが米国や日本は頭打ち感が強まっているほか、中国も新車販売台数の伸び率は鈍化している。一方、人口13億人を抱える巨大市場インドの成長はこれからで、ここを攻略しない手はない。そこでトヨタはスズキが生産した小型車を品揃えに加え、トヨタブランドを浸透させることにした。弱小メーカーからの脱皮へ向けた足がかりにしたい考えだ。
両社は今後もインドだけにとどまらず、様々な分野で協業を検討する方針。どう具体化するのか、今後も注目が集まりそうだ。