【震災7年 明日への一歩】釜石に建つ新スタジアム ラグビーW杯で世界に感謝を伝えたい

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   ラグビーワールドカップ(W杯)が2019年、日本で開催される。今から3年前、五郎丸歩選手らの活躍で大躍進を遂げた日本代表が、今度は地元で世界を相手に挑む。

   全国各地の開催地で唯一、新スタジアムが建設されるのが岩手県釜石市だ。かつて社会人チームの新日鉄釜石が7年連続日本一を飾った「ラグビータウン」は、東日本大震災で被災した際に支援を寄せてくれた世界への感謝を発信したいと意気込んでいる。

  • ほぼ9割完成した釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)
    ほぼ9割完成した釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)
  • スタジアム裏で整備が進む、津波の際の避難路
    スタジアム裏で整備が進む、津波の際の避難路
  • メーンスタンドには「想いを一つに『釜石の復興のシンボル』を築く」と掲げられていた
    メーンスタンドには「想いを一つに『釜石の復興のシンボル』を築く」と掲げられていた
  • スタジアムの完成予想図(画像提供:釜石市ラグビーワールドカップ2019推進室)
    スタジアムの完成予想図(画像提供:釜石市ラグビーワールドカップ2019推進室)
  • ほぼ9割完成した釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)
  • スタジアム裏で整備が進む、津波の際の避難路
  • メーンスタンドには「想いを一つに『釜石の復興のシンボル』を築く」と掲げられていた
  • スタジアムの完成予想図(画像提供:釜石市ラグビーワールドカップ2019推進室)

「釜石の奇跡」と呼ばれた象徴的な場所に建設

   釜石市中心部から車で国道45号線を20分ほど北上すると、広大な工事現場の先にメーンスタンドの大屋根が見えてきた。建設中の「釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)」だ。2018年7月完成見込みで、2月末時点で87.4%の工事を完了していた。記者が現地を訪れた3月19日、建設現場の近くから眺めると、まだ芝は張られていないがメーンスタンドとバックスタンドは整備が進み、スタジアムらしい姿になりつつあった。

   鵜住居(うのすまい)地区は、東日本大震災の津波で大きな被害を出した。スタジアムが建設されている場所にはもともと、釜石東中学校と鵜住居小学校があった。震災で津波が押し寄せる前、全校生徒は自主的に避難し無事だった。つらいニュースが多かったなかで、「釜石の奇跡」と呼ばれた象徴的な場所だ。グラウンドは、元の土地を5メートルかさ上げして整備した。またスタジアムの近くを流れる鵜住居川の河口には、水門とセットで高さ14.5メートルの防潮堤を新たにつくる。

   万一、再び津波が発生した場合の準備も余念がない。スタジアムから徒歩20分ほどの場所にある高台が、原則的に避難場所となる。ただしW杯では、仮設スタンドを含め最大1万6000人の観客を収容する予定で、周辺地理に疎い外国人をはじめ大人数を短時間でその場所に移動させるのは難しい。そこで、メーンスタンドの裏山に誘導路をつくり、海抜20メートル地点に避難できるよう整備している。スタジアムからすぐに見える場所で、移動もしやすい。

   W杯開催都市は全国12都市。東京や大阪、名古屋といった大都市と既存の大規模な球技場がある場所が選ばれたなかで、人口3万5000人ほどの釜石は特別だ。国内でラグビーの歴史が知られるだけでなく、震災の痛手から復興を目指す都市としての意味合いも、もちろんあるだろう。

住民自身が「何ができるか」と気持ちが前向きに

   スタジアムが建設されている鵜住居地区は、記者が訪れた4年前は吹きさらしの更地が延々と広がっていた。今日では新しい住居や学校といった建物が増え、津波で線路が流された鉄道も再建が進んでいる。道路も整備されてきた。それでも釜石市が100%復興したとは、必ずしも言い切れない。2018年2月末時点で、仮設住宅で暮らす人は1625人いる。

   釜石市ラグビーワールドカップ2019推進室主査の佐々木智輝氏の話では、市民からW杯の開催費、スタジアムの維持管理費に関する疑問が寄せられているのは確かだという。それでも釜石がW杯招致に名乗りを上げたのは、震災時に手を差し伸べてくれた世界中の人々に、「大きな感謝」を伝えたいとの強い思いからだ。観戦に訪れる人たちに、「釜石はここまで元気になった」と見せる、絶好の機会にしたいと望む。

   招致活動当初は地元でも「まだW杯どころではない」という意見はあった。だが開催地に選ばれ、スタジアム建設が進むにつれて「私たちは何ができるだろう、どうすれば世界中から来る皆さんをおもてなしできるだろうか」という相談が地域単位で寄せられるようになったと佐々木氏は明かす。市民がタウンミーティングを開き、住民ができることを市側と一緒に考える機運が高まってきた。駅に花を飾る、試合当日のゴミ拾い、観光客向けに地元を紹介するツアーを開く――。それぞれが身の丈にあった協力をしようと「気持ちが前向きになってきた」と佐々木氏は実感している。

   未来の釜石を背負う子どもたちにとっては、W杯とスタジアムが財産になってほしい。釜石では1次リーグ2試合が組まれているが、岩手県沿岸部の小中学生3000人が無料で招待される。市教育委員会では、市内の小中学校から代表者を集めて「釜石市子ども会議」(現「かまいし絆会議」)を発足した。子どもたちの視点でW杯開催にどんな協力ができるかを話し合う。例えば、対戦国の言語で巨大な旗をつくり、スタジアムに掲げて感謝の意を伝えようといった案が出ている。佐々木氏が所属する推進室は、地元の鵜住居小学校の子どもたち主導による釜石市のPR動画制作を後押しし、市のウェブサイトで公開した。

W杯後は地元の子どもや高齢者のための施設に

   W杯終了後、スタジアムは維持管理面を考慮して、1万人分の仮設席を外して常設の6000席に戻す。地元の子どもや高齢者が利用しやすいように、例えば学校の運動会や地域の交流イベントの実施を念頭に置いている。避難道路の整備も進めているので、避難訓練での活用もあるかもしれない。有効活用のためのさまざまな案を考えていきたいと、佐々木氏は話した。

   現役時代は新日鉄釜石でプレーしたラグビー元日本代表で、現在「W杯2019アンバサダー」を務める桜庭吉彦さんはJ-CASTニュースに、地元でのW杯開催に向けてメッセージを寄せた。「釜石市のみならず、被災地の復興が更に加速することを望んでいます。加えてラグビーW杯の試合を通じてコミュニティーの絆の深化、更には未来に向けてラグビーW杯の成功が自信になればと思っています」とした。

   また新スタジアムについては、こうコメントした。

「地域のシンボルとして市民が集い、過去と現在、そして未来をつなぐ存在になることを願っています」
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