ラグビーワールドカップ(W杯)が2019年、日本で開催される。今から3年前、五郎丸歩選手らの活躍で大躍進を遂げた日本代表が、今度は地元で世界を相手に挑む。
全国各地の開催地で唯一、新スタジアムが建設されるのが岩手県釜石市だ。かつて社会人チームの新日鉄釜石が7年連続日本一を飾った「ラグビータウン」は、東日本大震災で被災した際に支援を寄せてくれた世界への感謝を発信したいと意気込んでいる。
「釜石の奇跡」と呼ばれた象徴的な場所に建設
釜石市中心部から車で国道45号線を20分ほど北上すると、広大な工事現場の先にメーンスタンドの大屋根が見えてきた。建設中の「釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)」だ。2018年7月完成見込みで、2月末時点で87.4%の工事を完了していた。記者が現地を訪れた3月19日、建設現場の近くから眺めると、まだ芝は張られていないがメーンスタンドとバックスタンドは整備が進み、スタジアムらしい姿になりつつあった。
鵜住居(うのすまい)地区は、東日本大震災の津波で大きな被害を出した。スタジアムが建設されている場所にはもともと、釜石東中学校と鵜住居小学校があった。震災で津波が押し寄せる前、全校生徒は自主的に避難し無事だった。つらいニュースが多かったなかで、「釜石の奇跡」と呼ばれた象徴的な場所だ。グラウンドは、元の土地を5メートルかさ上げして整備した。またスタジアムの近くを流れる鵜住居川の河口には、水門とセットで高さ14.5メートルの防潮堤を新たにつくる。
万一、再び津波が発生した場合の準備も余念がない。スタジアムから徒歩20分ほどの場所にある高台が、原則的に避難場所となる。ただしW杯では、仮設スタンドを含め最大1万6000人の観客を収容する予定で、周辺地理に疎い外国人をはじめ大人数を短時間でその場所に移動させるのは難しい。そこで、メーンスタンドの裏山に誘導路をつくり、海抜20メートル地点に避難できるよう整備している。スタジアムからすぐに見える場所で、移動もしやすい。
W杯開催都市は全国12都市。東京や大阪、名古屋といった大都市と既存の大規模な球技場がある場所が選ばれたなかで、人口3万5000人ほどの釜石は特別だ。国内でラグビーの歴史が知られるだけでなく、震災の痛手から復興を目指す都市としての意味合いも、もちろんあるだろう。