岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 「国民すべてをキリスト教徒に」と願う声

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右派が望むのは「白人のキリスト教国家」か

   そして、私はジェリーに質問した。「イエスを信じていないイスラム教徒や仏教徒は、天国には入れないのでしょうか」

「あなたの戸惑いはよくわかります。でも、神がこの世のすべてを作られたのです。イエスはその神の子。私たちの罪のために自分の命を捧げた人は、イエス以外にいないのです。そして私たちに預言したようにイエスは復活し、私たちに天国を約束してくれたのです。聖書は神の言葉なのです。イエスの弟子によって書かれたもの、いわば歴史書なのです。アメリカにも日本にも歴史があるように。イエスの歴史、神の救いの歴史です」
「つまり、アメリカ人が皆、キリスト教徒になり、キリスト教国家になることが、あなたの望むところなのですね」
「まさにそうです。イエスを信じる人だけに、天国が約束されているのですから」
「保守・キリスト教右派が望んでいるのは、アメリカが『白人のキリスト教国家』になることだとリベラル派によく批判されるけれど、あなたの考えではその半分は正しいということですね。黒人でもアジア人でも白人でもクリスチャンになり、アメリカをキリスト教国家にしたいということですね?」
「その通り。その通りよ。そうなったらなんて素晴らしいんでしょう。そしてきちんと合法にやってくる移民であれば、どんな人でもこの国に大歓迎します」

   そして、ジェリーは満面の笑みをたたえながら言った。

「ああ、ミッツィ。あなたがクリスチャンの学校出身で、クリスチャンだったとは知らなかったわ。ニューヨークから来たというし、トランプが好きかどうかもわからなかった。あなたに会えて、なんて嬉しいんでしょう」

   私は自分がトランプ氏を支持するともしないとも、ひと言も言っていない。ジェリーも尋ねはしなかったが、私がキリスト教系の学校で学び、クリスチャンであることが、ふたりにとって大きな意味を持つとひしひしと感じた。

「ねえ、ミッツィ、もしあなたさえよかったら、一緒に私たちの教会に行きませんか」

   こうして次の日曜日、私はふたりが通う教会へ一緒に行くことになった。

   そして、ジェリーに、「あなた、復活祭の日はアメリカにいるかしら」と聞かれ、「その時は日本です」と答えると、とても残念そうだった。

   十字架にかけられて死んだイエスの復活を記念する日は毎年変わるが、2018年はこの記事が掲載された今日(4月1日)にあたる。

(以下、次回に続く。敬称略。随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


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