中国の従来型製造業には、「集積」という言葉がふさわしいかもしれない。産業チェーンの上から下まで、多くの部分がすべて一つの中心に向かい、空前の強大さを誇る「規模の経済」と「範囲の経済」により、生産コストを減らし、最終的に中国が「世界の工場」へと躍進するのを突き動かした。
この勢いのもとで、危機はすでに現れている。中国を猛烈な勢いで勃興させた工業形態が今、ひそかに瓦解しようとしている。これ以上、変化を求めずにいれば、中国の奇跡は終わりを告げることになるだろう。
成功した「産業集積」が引き起こす圧迫
だが、中国の製造業も自らの運命を変えようとしている。その目標が「新製造」という大変革である。
全中国に目を向けると、大工業地帯、産業パークは数えきれないほどある。車で一時間圏内に、設計と研究開発、原材料、加工工場、卸売市場、物流システムなどの多くの段階を網羅し、互いに協力して高速回転し、巨大な規模の経済で大量の靴や衣服、おもちゃや家具を生産している。
最終的に優れた品質で廉価な「メイド・イン・チャイナ」製品が一つ一つコンテナに詰められ、海を渡って全世界の商品棚へ運ばれる、或いは縦横に交錯する運河や鉄道網で内陸の無数の街へと運ばれる。この過程とともに中国経済は飛躍的に発展しただ。
しかし、このように集積した全産業チェーンが、現在ではだんだん厳しい圧迫を受けるようになり、切断されている。
環境保護がこうした小型の加工工場を圧迫し、都市のアップグレードが卸売市場のような「ローエンド産業」を圧迫する。大都市の人口規制はローエンド労働者を圧迫し、外国貿易の低迷や為替相場の変動は、産業チェーン全体を圧迫する。
古典的なものとしては仏山の陶磁器、杭州のアパレルがある。デザインや研究開発の一部は残されたが、その他のほとんどすべての部分はみな移転し、あるものは中国中西部へ、あるものは東南アジアやアフリカ大陸で海外工場を設立している。それぞれの距離はますます遠くなってゆく。
ビッグデータが可能にした小口注文生産
中国のネット通販企業、アリババの創業者である馬雲(ジャック・マー)が、「メイド・イン・インターネット」という概念を提起した。
彼は、「製造業はインターネットを学んでわが物とする必要があり、未来はメイド・イン・チャイナやメイド・イン・USAにはなく、未来の製造業はメイド・イン・インターネットにあり、製造業はすべてインターネット上で製造するようになるだろう」と2017年9月10日に無錫で開かれた世界IoT大会で語った。
インターネットという翼の助けを借りて、新たな産業変革がすでにひそかに始まっている。
江蘇省で1990年代に生まれた女性である朱文娟は、「淘宝(タオバオ)」というアリババが運営するネットショップサイトに出店している。南京芸術学院を卒業し、ファッションデザインを愛する彼女の夢は、自分が紙に書いたデザインの服を消費者に着てもらうということだ。ただ、彼女のような個人の淘宝店主にとって、ふさわしい工場を探すのは容易でなかった。なぜなら従来の工場は小口生産注文を受けたがらず、少なくとも一度に1万点以上の注文が必要だからだ。
しかし、彼女は「1688」というアリババの卸売りサイト上の工場で、こうした問題があっけなく解決することを知った。
毎月、朱文娟は10着の新商品のデザインをし、それを「ファングループ」に送り、ファンたちに投票してもらうことで、ネット上ですぐにフィードバックを得ることができる。型を決めると販売予約を受け付けるが、どの型もつくるのは20~30点のみで、単価は市場のものよりも少し高くなる。こうした小口注文は、25000社の工場のビッグデータ分析により、生産ラインに空きがある工場に流され、生産される。
この注文請負制度により、生産はもはや計画性のない賭博的なものではなくなり、ゼロ在庫を実現したのだ。閑散期と繁忙期もなくなった。工場は普段は自社が注文を受けたものを生産し、閑散期にはネットショップの売り手のためのオーダーメイド需要があるため、遊ばせておいた生産能力を復活させることができた。
かつて、1点の既成服がアイデア段階から消費者の手に届くまで、製造業者は1年前に流行色の計画をたて、シリーズを企画し、デザインを決め、見本をつくり、生産し、新商品を発売するといった、一連の長いチェーンを経てゆく必要があった。
「1688」の工場のおかげで、朱文娟のネットショップの売れ行きは急速にあがった。彼女はこう語る。
「今では毎日2000点余りの服が倉庫から全国各地に発送され、一年で5000万(約8.3億円)近い売り上げがあります」
「1688」という一つのウェブサイト上だけでも、数えきれないほど朱文娟のような店主がいる。
「規模の経済」から「スマート経済」へ
数十年続いた中国の製造業の物語は、今、とうとう新しいバージョンに生まれ変わろうとしている。かつては製造業→消費者という向きであったリンクは、今や消費者→製造業という逆向きのリンクになっている。こうした画期的な変革は、従来の製造業に全方位的な産業再構築をさせている。
「需要と供給のミスマッチ」は中国経済発展の最大の障害となってきたが、インターネットにより形成された大量のビッグデータと人工知能が、消費者と製造業者との間に橋を架け、供給と需要の間のあの高い壁を、一夜のうちに崩してしまった。
ますます多くのインターネットプラットホームが出現するにつれ、中国の「規模の経済」は、今まさに情報化経済時代の「スマート経済」に逐次取って代わられつつある。アパレル産業以外にも、「新製造」の物語は農業クラウドファンディング、スマートフォン部品、おもちゃなどの分野でも次々と生まれている。
ジャック・マーは2017年7月11日に開かれた中国Eコマース大会でこんな発言もしていた。
「我々が提起するメイド・イン・インターネットは、すべての人に影響を与えるもので、今からあなたの商業モデルを再考させ、あなたの消費者を再考させ、あなたのサプライヤーを再考させ、あなたの物流システム全体、あなたの融資システムを再考させるものです。今日うまくやっている企業ほど、より再認識を進める必要があります。今日いかにうまくやっていようとも、誰もが新たに自分の商業モデルを再整理しなくてはならないのです」
(在北京ジャーナリスト 陳言)