ビッグデータが可能にした小口注文生産
中国のネット通販企業、アリババの創業者である馬雲(ジャック・マー)が、「メイド・イン・インターネット」という概念を提起した。
彼は、「製造業はインターネットを学んでわが物とする必要があり、未来はメイド・イン・チャイナやメイド・イン・USAにはなく、未来の製造業はメイド・イン・インターネットにあり、製造業はすべてインターネット上で製造するようになるだろう」と2017年9月10日に無錫で開かれた世界IoT大会で語った。
インターネットという翼の助けを借りて、新たな産業変革がすでにひそかに始まっている。
江蘇省で1990年代に生まれた女性である朱文娟は、「淘宝(タオバオ)」というアリババが運営するネットショップサイトに出店している。南京芸術学院を卒業し、ファッションデザインを愛する彼女の夢は、自分が紙に書いたデザインの服を消費者に着てもらうということだ。ただ、彼女のような個人の淘宝店主にとって、ふさわしい工場を探すのは容易でなかった。なぜなら従来の工場は小口生産注文を受けたがらず、少なくとも一度に1万点以上の注文が必要だからだ。
しかし、彼女は「1688」というアリババの卸売りサイト上の工場で、こうした問題があっけなく解決することを知った。
毎月、朱文娟は10着の新商品のデザインをし、それを「ファングループ」に送り、ファンたちに投票してもらうことで、ネット上ですぐにフィードバックを得ることができる。型を決めると販売予約を受け付けるが、どの型もつくるのは20~30点のみで、単価は市場のものよりも少し高くなる。こうした小口注文は、25000社の工場のビッグデータ分析により、生産ラインに空きがある工場に流され、生産される。
この注文請負制度により、生産はもはや計画性のない賭博的なものではなくなり、ゼロ在庫を実現したのだ。閑散期と繁忙期もなくなった。工場は普段は自社が注文を受けたものを生産し、閑散期にはネットショップの売り手のためのオーダーメイド需要があるため、遊ばせておいた生産能力を復活させることができた。
かつて、1点の既成服がアイデア段階から消費者の手に届くまで、製造業者は1年前に流行色の計画をたて、シリーズを企画し、デザインを決め、見本をつくり、生産し、新商品を発売するといった、一連の長いチェーンを経てゆく必要があった。
「1688」の工場のおかげで、朱文娟のネットショップの売れ行きは急速にあがった。彼女はこう語る。
「今では毎日2000点余りの服が倉庫から全国各地に発送され、一年で5000万(約8.3億円)近い売り上げがあります」
「1688」という一つのウェブサイト上だけでも、数えきれないほど朱文娟のような店主がいる。