「民業圧迫」懸念
日本郵政は「通常貯金の限度額撤廃」を要望しており、2018年3月15日に開かれた民営化委員会で、長門正貢社長が正式に表明した。これは、通常貯金の限度額はなくし、定期・定額貯金は1300万円の限度額を維持するという意味とされる。同委員会は郵政の要望に沿う方向で議論し、3月中にも報告書をまとめる段取りだったが、民間金融機関側の猛反発で目論見通り進むか、不透明感が出てきているのが、現在の状況だ。
ゆうちょ銀が限度額撤廃を望む理由はいくつかある。まず、限度額の管理の事務コスト。限度額に到達した際の利用者への案内など、バカにならないという。二つ目に、退職金や相続などのまとまった資金が入る場合に1300万円の限度額に収まりきれず、他の金融機関に持っていかれてしまうことが少なくないという。
これに対して民間金融機関は断固反対の立場だ。政府が日本郵政の株式の過半を持ち、その日本郵政がゆうちょ銀に7割超出資しており、政府の信用力を背景とするゆうちょ銀に対する「民業圧迫」懸念が根本にある。全国銀行協会の平野信行会長(三菱UJFフィナンシャル・グループ社長)は3月15日の定例記者会見で、郵政側の動きに対し、「民間銀行の預金がゆうちょ銀行にシフトするといった意図せざる結果を招く」と懸念を示した。地銀協の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)も、その前日の会見で「地域別に預貯金の動向を見ると業態によってはゆうちょ銀の伸びが民間を上回る地域もある」とし、「今後金利が正常化した場合は資金シフトが起こる可能性が高く、地域の金融システムへの影響が懸念される」と具体的に反対論を展開している。
最大の論点は、この資金シフトだ。預入限度額が1300万円に引き上げられた2016年4月以降、ゆうちょ銀の貯金の伸びは民間金融機関の伸びを下回っており、貯金残高は17年12月末時点で181兆円と、16年3月末に比べ3兆2000億円程度の増加にとどまる。家計の金融資産に占める貯金の割合も15年3月末の9.9%から17年9月末では9.6%に低下しており、資金シフトがあったとは言えないようだ。