中国国務院の大改革 憲法改正の背後に潜む意味  

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   2018年の「両会(全国人民代表大会、中国人民政治協商会議」)は、3月4日から20日までだった。「両会」の時期となると、北京駐在の日本大使は忙しくなる。中日関係が険悪となった時期の丹羽宇一郎大使(在任2010年6月~2012年11月)は、「両会」期間中にほぼ毎日、北京に来た各省の省長(知事)や代表と面会していた。中日関係が好転している兆しが出ている現在、今の日本大使も忙しいだろうか。

   今回の「両会」期間中には憲法改正や、日本でいえば内閣に相当する国務院の機構改革などが注目を集めた。とくに、今回の中国政府の機構改革は、大方の予測を超えた内容だと人々は気づいている。日本のマスコミがあまり報道しない注目点を指摘したい。

「退役軍人」重視で軍事強国へ

   「国家退役軍人事務部」の新設は、このような機構は諸外国でもそう多くあるわけではない。

   国務院を構成する部局のひとつとして新設され、部門長が中国の最高権力機関である全国人民代表大会の決議で任命され、その地位は「その他の機構」とは異なるという。

   国家退役軍人事務部の主な職責は、党と国家、人民に犠牲的な貢献をした精神とその価値を誘導するために、退役軍人を顕彰や軍人の復員、退職・退役兵士の一般社会への復帰、退役軍人に対する優待補償の組織的展開、烈士と退役軍人に対する栄誉奨励、軍人公墓の維持管理と記念活動などが含まれる。これによって、軍人と国家の連携は行政上で大幅に強化されよう。

   一言で表現すれば、軍人に対して「思い切って励みなさい。国家が後ろ盾としてあるのだから」ということになる。それは中国が軍事大国から軍事強国に発展するための決意と言えよう。これは、中国の軍隊が頻繁に「海外に出て行く」ということを意味するのだろうか。刮目に値しよう。

国税と地方税の合体

   今回の機構改革で打ち出された国税と地方税の合体は、中央と地方の関係に新たな構造をもたらすだろう。

   1994年、分税制による財政管理体制の改革前、中国の税制は「竃(かまど)を分けて飯を喰らう」方式で、財政の多くが地方に留保されたが、そのために中央は深刻な財政危機に陥った。

   こうした経験から、中央は地方に「諸候主義」が蔓延するのを防ぐため、分税制を採用して耕地占有税、不動産税、煙草税などいくつかの税の徴収権は地方に残したものの、企業所得税などの大きな税については中央と地方で分け合い、その一部を地方に再分配した。こうした方式を確立することで、中央が全国を調整・制御したのである。地方の財政権は小さく、中央の政策を実行する積極性に乏しくなり、常に「政令は中南海を出ず」の状態がはびこった。

   中央の援助を得るため、地方は中央詣でに血道をあげ、そこに腐敗と不公正が生まれた。

   地方は税源となる土地財政への依存度が高まり、経済が不動産の奴隷となった。

   今回省級と省級以下の国税地方税機構を合併し、国家税務総局とすることで、国税と地方税の間の関連を整理し、財政収入の移転をさらにスムーズにすることを狙っている。

中国共産党によるイデオロギー統制

   さらに、今回の大改革を理解するためには、今回の全人代で副首相に選出された劉鶴氏が、選出される前の3月13日付の『人民日報』に発表した文章を熟読すべきである。一字一句が意味深長だ。劉鶴氏は習近平の友人で、中国共産党の「権威筋」として知られる。

   劉鶴氏が、国務院の機構改革に言及した部分では、「国家新聞出版広電総局を土台として広播電視総局を立ち上げるに際し、『新聞』と『出版」』の二語を削除している」と指摘。多くの国民はこのことが何を意味するのかよく判らないだろう。二大宣伝領域の中で、権力機関の存在感が弱体化したのだろうか、と疑問を持つものもいる。

   その実、劉鶴はその文章で、「今回の重要な改革の中で、党の全面的な指導の強化は核心問題となっている」と書いている。これまで国務院の中には「新聞出版署」という独立した局があったが、今回の機構改革で新聞(中国ではマスコミという意味)と出版は、共産党の中央宣伝部に移転され、党のイデオロギー部門の一部となった。

   劉鶴氏がその文章で明らかにしたところによれば、従来の機構改革は主に政府機構と行政体制面に限定されていたが、今回はきわめて全面的で、党、政府、人民代表大会、政治協商会議、司法、民間団体、社会組織、事業単位、軍隊、中央と地方政府の各級機構へと範囲が及びそうだ。

   今回の国務院機構改革は前哨戦で、その後に党の機構改革がつづくことに疑う余地はない。そして党の機構改革は困難で大規模であり、それは中国の将来の方向性に直結することになるだろう。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

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