大相撲の貴乃花親方が、内閣府に提出していた公益財団法人・日本相撲協会への告発状を取り下げる意向を表明した。
日馬富士暴行事件からの長い沈黙を破ってテレビのインタビューに応じた際、「気持ちは(協会と)戦います」と目つきをギラつかせた貴乃花親方だが、わずか1か月あまりで事実上の「白旗宣言」。皮肉にも、現行の「八角理事長の体制が固まった」との見方も出る結末を迎えた。
「貴公俊には寛大な措置をお願いしたい」
「すべてをゼロにする。一兵卒として出直す」。2018年3月23日、報道陣に対応した貴乃花親方は、9日に内閣府に提出していた協会のガバナンスを問題視する告発状を取り下げる意向を表した。弟子の十両・貴公俊が18日に起こした、付け人暴行事件の影響は明らか。「師匠の私にも責任はある。貴公俊には寛大な措置をお願いしたい」と腰は低かった。処分は29日の理事会で決定する。
元日馬富士による貴ノ岩への暴行事件が17年11月14日に明るみに出てから、貴乃花親方と八角理事長ら協会執行部との対立構図が浮き彫りになってきた。貴乃花親方は協会への非協力姿勢が問題視され、理事を解任されるまでに至った。メディアには口を閉ざしてきたが、18年2月7日放送のテレビ朝日の独占インタビューで長い沈黙を破り、煮えたぎる思いを吐露。「協会に戦いを挑むか?」という問いに、「気持ちは戦います」と明言していた。
それから1か月あまりでの「すべてをゼロにする」宣言。3月23日放送の「直撃LIVE グッディ!」(フジテレビ系)では、安藤優子キャスターが「貴乃花親方の文字通り『一人相撲』だったということですかね」と印象を述べると、ジャーナリストの木村太郎氏は
「『一人クーデター』が失敗した。すべてこれで終わったということではないでしょうか。最初の事件で日馬富士は引退したわけですよ。貴公俊も、同じことになると引退しないといけなくなる。そこまで追い込まれることを一番心配したのではないですか」
と推察した。
「暴行事件で『信念の歯車』が狂った」
東京相撲記者クラブ会友の大見信昭氏は同番組でこう見解を述べている。
「かつて双葉山(元横綱)が69連勝して負けた時に『信念の歯車が狂ってやめそうになった』と言ったそうですが、貴乃花親方も、(貴公俊の)暴行事件で『信念の歯車』が狂ったんじゃないでしょうか。明らかにあの暴行事件で潮目が変わりました」
17年11月から続いた「貴の乱」によって「相撲協会や大相撲自体に何か変化の兆しがもたらされたのか」と尋ねられると、大見氏は返答に窮しながらも見通しを述べた。
「貴乃花親方に対する形で、逆に八角体制が固まったとも言えます。もうすぐ(26日)理事長選があります。八角理事長は自分の信任が得られたということでおそらく続投になります。自信をもって、これからの(任期)2年間も采配を振るうのではないでしょうか。(中略)上層部だけでなく、普通の親方たちも貴乃花親方の行動には批判的で、なかには『大相撲界から出ていってくれ』という声もあったようですから」
木村氏は「『クーデター』というのは、失敗したら何も正当化しない。終わり。そういうものなので、(28日の)年寄総会でも貴乃花親方は謝るだけでしょう。申し開きをする気もないですよ、おそらく」と推測。安藤キャスターは「八角体制がこれで強固になったというのは皮肉ですね」とこぼしていた。