岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 「もう顔も見たくない」コミュニティの亀裂

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同性結婚と中絶めぐる価値観

   数日後、ジェリーの家を訪ねた。彼女とアルは、クリスと同じ保守派キリスト教の教会に通っている。お互いに共和党と知り、喜び合ったという。

   「ここのコミュニティじゃ、共和党支持者は少ない。トランプを支持していることで、人間関係がぎこちなくなった」とクリスは私に話していた。

   ジェリーは、「日頃、この話にはなるべく触れないようにしているわ」と言い、トランプ大統領がいかにアメリカ人に仕事をもたらしているかなど、クリスと同じような話を私にしたあとで、宗教に触れた。

「私はキリスト教プロテスタント派で、神を信じているわ。同性結婚や中絶には反対です。トランプは私たちの価値観に近いの。トランプが大統領になったのは、神の御心だと思っているわ。トランプはこの国の大統領なのだから、敬意を払うべきでしょう。何を成し遂げ、どんな大統領になれるか、メディアも彼に反対する人たちもトランプを見守り、チャンス与えてください、と神に祈っているの」

   私がキリスト教系の学校出身でクリスチャンと知ると、ジェリーもアルもとても喜び、一緒に教会に行かないかと誘ってくれた。アメリカのプロテスタントで最も人口の多い、保守的なバプティスト派の教会だった。この地域は、米南部から中西部にかけてキリスト教保守派の影響力が強い「バイブル(聖書)ベルト」に含まれる。

   友人の家に戻ると、彼女は今度もまた待ち構えていたように、ジェリーが何を話したか知りたがった。

   教会に一緒に行く約束をした話をすると、意外にも「あら、よかったじゃない?」と答えたが、バプティスト教会と知ると、目を白黒させた。

「それって聖書を文字通りに解釈する人たちよ。あんな大昔に書かれたものを、文字通り信じてるなんて、あり得ないわ」

   友人は女性の権利や地位の向上を日々、口にし、中絶もプロチョイスの立場に立っている。

「同性結婚にも反対だって、ジェリーが言ったの? そう言ったのね?」

   ジェリーは、「神は男性のために男性を作ったのではなく、女性を作ったのよ。同性同士でどうやって子供を作るんですか」と私に語った。

   このコミュニティには、ゲイカップルの高齢女性が同居している。ふたりともショートカットで、知的で活発そうな雰囲気がとてもよく似ている。ひとりは博士号を持ち、ふたりとも大学で働いていた。一緒にいるところを私も何度か見かけ、言葉を交わした。感じのいい人たちだった。友人はこのふたりのことを、とても気に入っていた。

   「女性は子供を作るための道具じゃないわ」と友人は声を荒げた。

   じつは友人は最近、クリスがよそよそしくなったと感じ始めた。「自分がゲイの女性ふたりと親しげにしているからかもしれないわ」。

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