SUBARU(スバル)の吉永泰之社長(63)が最高経営責任者(CEO)のまま代表権のある会長に就き、社長に米国現地法人会長の中村知美・専務執行役員(58)を充てるトップ人事を決めた。2018年6月下旬の株主総会を経て正式に決定する。3月2日、発表した。
吉永氏はCEOを続けるように、無資格検査問題を受けた「引責人事」ではない。自動車業界が大きな変革期を迎えているなかで、なお吉永氏のリーダーシップが必要という判断と見られる。吉永氏の在任期間中、同社は右肩上がりの成長を続けてきたが、無資格検査問題の発覚と時を同じくして、潮目が変わりつつあるようにもみえる。新社長に就く中村氏がどんな成長戦略を描くのか、注目されそうだ。
「正しい会社推進部」と「コンプライアンス室」を新設
吉永氏は2011年6月に社長に就任。「走りの良さ」と安全運転支援技術「アイサイト」などの安全性能を前面に打ち出す戦略が当たった。就任前の11年3月期に約66万台だった世界販売台数は、17年3月期には約106万台へと急拡大。1兆5800億円だった連結売上高は3兆3300億円に膨らみ、売上高営業利益率もここ数年はコンスタントに2ケタをたたき出すなど、国内完成車メーカーきっての高収益企業に成長した。17年4月には「富士重工業」から「SUBARU」へと社名を変更。グローバルな完成車メーカーとして、新たな歩みをはじめていた。
順風満帆にみえたスバルにほころびが見えたのが、17年秋に発覚した無資格検査問題だ。無資格者が検査に携わっていたほか、試験官が社内試験会場で解答を教えるなど、ずさんな管理・運営が発覚した。17年12月には、完成検査の際に自主的に実施している燃費測定のデータに改ざんの疑いがあると発表。吉永氏は18年3月2日の社長交代記者会見で、「データの書き換えは実際に行われてきたと捉えている」と事実関係を認めた。「基準値の範囲内に収まっており、カタログ値が変わるわけではない」と説明したうえで、「大きな問題で、反省しなければならない」と述べた。
無資格検査は30年以上前から常態化していることが判明しており、吉永体制化での急成長が直接の要因ではない。だが吉永氏はかねて「実力が伴っていない」と述べていた。無資格検査やデータ改ざんを許す「甘い」企業風土のことだ。吉永氏は「一連の問題から逃げずに対処することが責任」とCEOに残る理由を説明。4月1日付で「正しい会社推進部」と「コンプライアンス室」を新設し、陣頭指揮を執ると明らかにした。
事業環境は大きく変化
吉永氏は「中村さんに権限をどんどん渡して、邪魔にならないようにしたい」と述べ、自身が信頼回復に取り組む間に、中村氏は事業戦略を練ることになるということだろう。
だが事業環境は大きく変化しており、「堅実な成長」を実現するのは容易ではない。
まずは販売台数の伸びの鈍化だ。2018年3月期の世界販売は106万7100台を見込むが、これは前期より2500台増えるだけ。地域別では中国が1万7700台減の2万9800台と、不振が際立つ。稼ぎ頭の米国は67万1300台と3700台増えるが、総需要にピークアウト感が漂う中、今後は厳しい展開も予想される。
電気自動車(EV)や自動運転など、自動車業界は100年に一度の変革期にあるといわれる。トヨタ自動車の1割程度の規模のスバルが、すべてを自前でやることは不可能。「競争」と「協調」の線引きをうまく引いていくことも必要だ。
5月から今夏に延期された中期経営計画の策定は中村氏が主導するという。成長軌道をどう描くのか、まずは注目だ。