中国・吉利がダイムラーの大株主 全人代でも注目されたワケ

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    2018年の全国人民代表大会(全人代)は数年前とがらりと変わり、高級幹部の子女が世界超一流ブランドの服を着て闊歩する姿が消え、普通の労働者、農民の姿がテレビ画面にたくさん出るようになった。企業も国営大企業の経営者がほとんど取材されず、民間のインターネット企業の経営者が露出度を増やしている。

   中国企業による海外企業の買収(M&A)も議論されているが、ホテルなどの不動産、映画制作などのエンターティメント企業などの買収は、議論の対象にならず、実業への投資が高く評価された。

  • 北京市内の駐車場に置かれた吉利の自動車(一番手前)。北京のような大都会で見ることは少ない
    北京市内の駐車場に置かれた吉利の自動車(一番手前)。北京のような大都会で見ることは少ない
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2020年に9割を新エネ車に

   中国自動車メーカーの吉利ホールディンググループのウィチャット(WeChat)公式アカウントが2月24日に発表したニュースによれば、同社はすでに傘下の海外企業を通じて90億ドルを投じ、ベンツの親会社であるダイムラーの株式の9.69%を購入することで議決権を取得し、同社最大の株主になったという。

   吉利董事長(会長)で全人代代表の李書福氏は、当然マスコミから広く注目を集めた。2020年に生産する車の9割を新エネ車にするなど大胆な発言もし、中国の自動車生産の新しいトレンドを作ろうとしている。

   冷蔵庫の生産で成功した李氏は、1986年から車の生産に乗り出した。技術やブランドをほとんど持っていなかったが、海外の自動車企業と合弁して値段の高い車を生産していくやり方と違い、農村でも十分受け入れてもらうような車をひたすら作ってきた。そして、今は中国の産業政策にしたがって新エネ車に全力を挙げている。

   吉利は、ここ数年、自動車業界で買収を繰り返してきた。

   2010年、吉利はフォードからボルボを買収し、中国自動車業界で最も成功した海外M&Aの一つと見なされている。2017年12月27日、吉利はさらに39億ドルを投入して同自動車メーカー最大の株主となった。同じく17年、吉利は経営不振に陥ったマレーシアのプロトンの株式49%、スーパーカーのブランド「ロータス・カーズ」の株式51%をそれぞれ取得し、さらに英国のスポーツカーのブランドであるグループロータスの支配株主の権利と米国のテレフギアを買収した。

   これらの買収によって、吉利は商用車、スポーツカー、トラックなどを有する巨大かつ細分化されたブランドを握り、今ではさらにダイムラーが加わった。李書福董事長が次のように語った。

「ダイムラーは電動化、スマート化、無人運転、シェアリングなど各分野において優位性を持っている」

   繰り返した買収によって、吉利の国際化の体制が固まってきた。

中国政府が嫌う「非理性的」投資

   ただし、中国企業によるM&Aは、必ずしも吉利のように順調にいくものばかりではない。

   かつて海外M&Aで有名になったデベロッパー企業の大連万達などの企業はこれまでに傘下に収めた海外不動産などの売却に奔走しており、保険企業の安邦のように別の海外M&Aで知られる企業は政府により接収管理されている。

   このような現状にもかかわらず、吉利の海外M&Aは、新華社傘下の『経済参考報』、『上海証券報』、そして人民日報傘下の『証券時報』が、いずれもそのダイムラーの株式を購入したことを称賛した。中国政府が吉利の海外M&Aを制止したことはこれまでに一度もない。

   2017年中旬以降、中国政府は「非理性」的な海外投資行為を厳格に制限しようとしているが、政府の説明によれば、海外における不動産やホテル、映画館、娯楽業、スポーツ施設などの分野に対する投資はいずれも「非理性的」なものであるというが、自動車分野は明らかにこれに該当しないということになる。

   実のところ、中国政府が嫌っているのは、国内金融機関からの融資が海外M&Aに用いられることや、また中国国内で人民元の借金を背負いながら海外のドル建て資産を有しているということである。つまり、それは資産が海外に「移動」することにほかならないからだ。

   それゆえ、買収資金の出所に関して、李書福氏がメディアの取材を受けた際、

「ダイムラーの株式取得の資金は吉利の海外企業が海外資本市場を通じて用意されたものであり、買収資金の自己均衡が取れ、中国国内にある資金は使用していない」

ということを、なぜしきりにアピールしていたのかということがここから理解できる。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

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