中国政府が嫌う「非理性的」投資
ただし、中国企業によるM&Aは、必ずしも吉利のように順調にいくものばかりではない。
かつて海外M&Aで有名になったデベロッパー企業の大連万達などの企業はこれまでに傘下に収めた海外不動産などの売却に奔走しており、保険企業の安邦のように別の海外M&Aで知られる企業は政府により接収管理されている。
このような現状にもかかわらず、吉利の海外M&Aは、新華社傘下の『経済参考報』、『上海証券報』、そして人民日報傘下の『証券時報』が、いずれもそのダイムラーの株式を購入したことを称賛した。中国政府が吉利の海外M&Aを制止したことはこれまでに一度もない。
2017年中旬以降、中国政府は「非理性」的な海外投資行為を厳格に制限しようとしているが、政府の説明によれば、海外における不動産やホテル、映画館、娯楽業、スポーツ施設などの分野に対する投資はいずれも「非理性的」なものであるというが、自動車分野は明らかにこれに該当しないということになる。
実のところ、中国政府が嫌っているのは、国内金融機関からの融資が海外M&Aに用いられることや、また中国国内で人民元の借金を背負いながら海外のドル建て資産を有しているということである。つまり、それは資産が海外に「移動」することにほかならないからだ。
それゆえ、買収資金の出所に関して、李書福氏がメディアの取材を受けた際、
「ダイムラーの株式取得の資金は吉利の海外企業が海外資本市場を通じて用意されたものであり、買収資金の自己均衡が取れ、中国国内にある資金は使用していない」
ということを、なぜしきりにアピールしていたのかということがここから理解できる。
(在北京ジャーナリスト 陳言)