レスリングの伊調馨選手へのパワハラ告発問題で、加害者と指摘されている栄和人監督が所属する至学館大学(愛知県大府市)の谷岡郁子(くにこ)学長が2018年3月15日、告発内容への「反論会見」を開いた。そこで述べた内容が新たな論議の火種となった。
練習場が定まっていないという伊調選手に対し、谷岡学長は「必要があるなら私たちはいつでも歓迎」と寛容さを見せる一方、「そもそも伊調馨さんは選手なんですか?」と疑問を投げかけた。スポーツジャーナリストの玉木正之氏は会見を聞き、発言内容に「古い考えです」と眉をひそめる。
「彼女は東京五輪をめざしているのですか?」
伊調選手は至学館大(旧・中京女子大学)出身で、卒業後の現在は警備会社ALSOK(アルソック)に所属している。谷岡学長は会見で、「もし母校である至学館で練習する必要があるなら、私たちはいつでも歓迎である旨は申しました。栄監督が率いるレスリングチームの道場は彼個人のものではない。私が『使わせる』と言えば、伊調馨さんはいつでも使うことができます」と寛容な姿勢を見せた。また、「その程度のパワーしかない人間なんです、栄和人は。パワーのない人間によるパワハラが一体どういうものであるか、私には分かりません」とパワハラの存在を否定した。
だが伊調選手に対し、「警察にも太いパイプを持つアルソックの社員であれば、所属元を通してでも練習場所を確保しようと思えば簡単にできたはずではないでしょうか。どうしてアルソックで練習しないのか」と一転して疑問を投げかけた。さらに、
「そもそも伊調馨さんは選手なんですか? そもそも彼女は東京五輪をめざしているのですか?」
と、現役選手であることを疑った。
その理由を「リオ五輪後、『これからのことは空白だ』という旨を彼女は言っていました。『東京五輪をめざすか分からない、しばらく休みたい』と言ったまま、その考えを変えたことを私どもはまったく知らないからです。アルソックでは今年1月、選手契約から社員としての契約に変わっています。日本レスリング協会でも『広報部に配属されました』とあいさつに見えたと聞いています」と述べる。なお谷岡学長は協会の副会長もつとめている。
告発状では、伊調選手が練習拠点を出入り禁止にされたとして、五輪5連覇を阻止する策動ではないかと指摘がある。だが、谷岡学長は上記の主張から、
「選手でない人、五輪をめざすはずがない人の5連覇を阻止するということが、存在できるでしょうか。明らかに協会の大スポンサーでもあるアルソックに所属する人の練習場所を抑えてまわるほどのパワーが、栄監督にあるでしょうか」
と、伊調選手を「選手」として認識していないようだった。