「池の水ぜんぶ抜く」ロケで在来魚が「大量死」 「専門家がいない」現場を参加者告発

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   テレビ東京の人気番組「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」の撮影が行われたイベントで、主催者および番組側の不手際により、池の魚が「大量死」する事態が起きていたとの報告が、複数の参加者から出ている。

   問題のイベントは、2018年2月18日に岐阜県笠松町で行われたもの。参加者の話によれば、現場では捕獲した魚を一時的に保管しておく容器が不足しており、酸欠などで死ぬ魚が続出する状況だったという。

  • 捕まえた魚を保管する容器。泥水の中に、大量の小型魚の死体が浮いている(写真は常川真さん提供)
    捕まえた魚を保管する容器。泥水の中に、大量の小型魚の死体が浮いている(写真は常川真さん提供)
  • 大部分の水を抜いた池の様子。ここでも小型魚の死体が浮いている(同)
    大部分の水を抜いた池の様子。ここでも小型魚の死体が浮いている(同)
  • 捕まえた魚の識別作業。当初、綺麗な水は用意されていなかったという(同)
    捕まえた魚の識別作業。当初、綺麗な水は用意されていなかったという(同)
  • ポンプで抜き出した池の水は、公園内の草地に流し出された(同)
    ポンプで抜き出した池の水は、公園内の草地に流し出された(同)
  • 捕まえた魚を保管する容器。泥水の中に、大量の小型魚の死体が浮いている(写真は常川真さん提供)
  • 大部分の水を抜いた池の様子。ここでも小型魚の死体が浮いている(同)
  • 捕まえた魚の識別作業。当初、綺麗な水は用意されていなかったという(同)
  • ポンプで抜き出した池の水は、公園内の草地に流し出された(同)

イベントの目的は外来種の駆除

   「池の水ぜんぶ抜く~」は、番組が住民などの要請を受けて各地にある池の水をポンプで抜き、水質の改善や外来種駆除などを図る番組。不定期放送の特番としてスタートしたが、18年4月からは月1回のレギュラー放送が決まっている。

   3月11日放送の「第7弾」では、約25種類のトンボが生息する岐阜県最大のビオトープ「笠松トンボ天国」を訪問。お笑いコンビ「ココリコ」の田中直樹さんが、ヤゴ(トンボの幼虫)を食べる外来種を駆除するため、1000人を超える一般参加者とともに池の水を抜く様子を取り上げた。

   放送では、今回の作業でライギョやブルーギル、アメリカザリガニなどの外来種を大量に駆除したと紹介。あわせて、ヤゴや多数の在来魚などを「保護した」とも伝えていた。また、番組に協力している環境保全団体の担当者は、作業の終了後に、

「かなり外来種が獲れたので、これから環境が上向きになって来るんじゃないか」

といった前向きな言葉も口にしていた。

   だが、こうした放送の内容に違和感を示す声が、複数のイベント参加者から上がっている。実際の現場では、参加者への指示が行き渡っていなかったり、捕獲した魚を保管する準備が十分に出来ていなかったりなど、作業に大きな混乱が生じていたというのだ。

一般参加者が魚の識別作業を行うような状況

   岐阜大学の「生物科学研究会」というサークルに所属するツイッターユーザーのぎどら(@gibelio1)氏は、一般参加で今回のイベントに参加。番組放送前の2月21日のブログで、現場の混乱について詳細に記している。

   ブログではまず、一般参加者に対してはイベントの趣旨や目的などの説明はほとんどなかったと指摘。池の水を抜き終わった後は、各々の参加者が「やりたい放題」の状況だったと苦言を呈した。

   参加者らが池の中を踏み荒らしたことにより、在来種を含む小型魚の「死体が池の各所に浮く」状況だったと振り返る。また、他の参加者が捕獲した魚の受け取りをスタッフに拒否されるケースもあったとして、池にはライギョやコイなど瀕死の大型魚も散見されたと伝えていた。

   さらにブログでは、捕獲した魚を保管しておくバケツやバットが「圧倒的に不足していた」とも指摘。現場には当初は綺麗な水がなく、魚は泥水の中に入れられていたという。こうした現場の様子についてぎどら氏は、

「専門家なんてどこにもいない。そもそも半数近くが死んでいるなか、集められた魚は過酷な環境に置かれ続ける。中盤になった頃、エアレーションがすこし投入されるが、時すでに遅し(中略)次々に追加の魚(死体)が来る中、NPOの案内役の人が各魚類の説明をする撮影が脇で始まる。このころ、撮影用の綺麗な水が現場に置かれていた」

と振り返っている。

   さらにブログによれば、現場には十分な知識のある専門家がいない状況で、ぎどら氏を含む複数の一般参加者が魚の識別作業を行うような状況だった。

「酸欠でどんどん生き物が死ぬ」

   こうした問題点を指摘した参加者は、ぎどら氏1人ではない。「岐阜県昆虫分布研究会」に所属する常川真さんは13日のJ-CASTニュースの取材に対し、

「網で捕まえた魚を入れる容器が圧倒的に足らない。数少ない容器の中は酸欠でどんどん生き物が死ぬ。池の中も、一度に沢山の人が入り、泥水となり酸欠で小魚が大量に浮かぶ事態に」

と現場の状況を生々しく振り返る。とにかく捕獲した魚を保管する容器が足りない状況で、一般参加者のバケツも借りて使わなくてはいけない程だったという。

   さらに常川さんは、イベントの開催前から主催側の認識に不安を感じていたとして、事前に昆虫や魚に詳しい地元の人間に参加を呼び掛けたとも明かす。その上で、こうした一般参加者が主体となって、ボランティアで魚の識別作業に取り組んでいたとも訴えていた。

   そのほか、イベントに参加した岐阜大学の男子学生(20)も、番組放送直後のツイッターで、池に浮かぶ魚の死体の写真をアップし、

「『池の水全部抜く』に参加した みんな大型の魚ばっかり狙うから、小型の在来魚が取れても捨てられて弱って死んでいく様子が辛かった」

と投稿。ツイートの真意について尋ねると、ぎどら氏がブログで訴えた内容は「全て事実」だと認めた上で、イベントに参加した感想について次のように振り返った。

「淡水魚の専門家もいなければ現場の統制も取れずに、魚が次々と死んでいきました。環境に恵まれた場所においてこの様なことが起きてしまい残念です」

テレ東「様々なご意見が出ていることは承知しております」

   なぜ、このような事態が起きてしまったのか。

   イベントを主催した地元団体「トンボ池を守る会」の担当者は12日のJ-CASTニュースの取材に、池の水を抜く今回の企画は「こちらが番組側に依頼して実施したものです」と説明。ただ、

「イベントの主催は私たちですが、専門家や現場のスタッフ、水を抜く作業を行う業者などは番組側で全て手配すると伝えられていました。こちらの作業として指示されたのは、一般の参加者を集めることだけでした」

とも話していた。つまり、同会の認識としては、イベントの現場運営はすべて番組側に一任していたということだ。

   なお、上述したように現場の混乱を指摘する意見が出ていることについて、同会の担当者は「1番の目的は、ヤゴを食べてしまう外来種の駆除。こちらとしては、今回の収録でその目的は達成できたと思っている」と回答。続けて、

「こういう言い方は問題かもしれませんが、前提としてある程度の犠牲は仕方がないとも考えていました。そういう意味では、問題を訴えた方々とは認識の違いがあるのかもしれません」

とも話していた。

   またJ-CASTニュースでは、テレビ東京広報局に対して、(1)現場の混乱を訴える参加者の意見は事実だと認識しているか(2)現場の運営は番組側に一任していたという主催側の考えは正しいのか――などを取材で質問したが、テレ東側から返ってきた回答は、

「今回の笠松での取材に関して、ロケの進行などについて、様々なご意見が出ていることは承知しております。皆様からいただいたお声には真摯に向き合い、専門家の方々のお話も引き続きお伺いしながら、今後の番組制作に生かしていきたいと思います。何卒ご理解のほどお願い申し上げます」

というものだった。

番組では「保護した」と伝えていた魚が...

   なお、番組の放送では、今回のイベントによる作業で、岐阜県の準絶滅危惧種に指定されている在来魚「イトモロコ」358匹、環境省が絶滅危惧種に指定する「トウカイコガタスジシマドジョウ」26匹などを「保護した」と伝えていた。

   しかし、先のブログで現場の状況を伝えたぎどら氏は取材に対し、番組側が「保護」したとして伝えた個体数は、「生存個体、死体すべて合わせた数です。正しくは保護ではなく捕獲した数になります」と答えた。

   また、魚の捕獲シーンで「捕獲作業は専門家の指導のもと行っています」というテロップが出た部分についても、

「捕獲に参加した一般参加者は指導など受けていません。進行・スタッフ側の数がわずかでしたので、各参加者への指導をする余裕などありませんでした」

と指摘していた。

   その上で、ぎどら氏は「池の水抜きを行う際は一定量の犠牲が出ることは初めから承知しております」ともコメント。しかし、今回の作業については「必要以上に犠牲が出てしまっている」と感じたとして、

「イベントの運営、収録現場には問題点が複数あったのは確かだと思います(中略)今後全国で同様のイベントを公・民問わず行う際、計画・実行段階で同じようなミスが起こらないことの一助に自分のブログがなれば幸いです」

と訴えていた。

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