岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 大統領支持を公言できない市民の本音

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「国民1人1人」か、「マイノリティ」か

「民主党支持者は国民1人1人より、マイノリティの利益ばかり叫んでいる。メキシコや南アメリカやニカラグアから次々に国境を越えてやってきて、我々の学校や病院、福祉の世話になっている。そんな人たちを援助し続けることは、できないんだ。そのために娘の税金が使われるのかい? その前に救わなきゃならないアメリカ人がたくさんいる。この国に貢献できる移民なら、歓迎するよ。医者でも庭師でも、生物学者でもアーティストでも、ね。世界中の人に国境を開放することなどできないんだ。メキシコ国境から流れてくる麻薬も、大きな問題だ。麻薬に関するアメリカの法律は甘い。不法移民や麻薬を阻止するために壁が必要なら、作ろうじゃないか」

   クリスは立ち上がるとパソコンに向かい、社会福祉の統計を指さした。

「見てごらん。6千8百万人ものアメリカ人が、政府から何らかの形で公的援助を受けている。白人は16.8%。黒人39.6% 、ヒスパニック系21.2%、アジア系と太平洋諸島が18%だ。そのうちの4千1百万人がフードスタンプ(food stamp=食料配給券)をもらっている」

アメリカ人の5人に1人が公的援助を受けていることになるが、これは米国勢調査局(United States Census Bureau)の発表でも同じだ。同局の2016年のデータによれば、アメリカ全体の人口は白人77%、黒人13.3%、ヒスパニック系17.8%、アジア系、ネイティブハワイアンとその他の太平洋諸島が5.9%だ。公的援助を受ける割合は、白人が圧倒的に少ない計算になる。

   クリスは、さっき私が訪ねてきた時に寝たふりをしていたソファを指さした。

「あそこにすわって、大統領選(2016年11月8日)の結果をテレビで見ていた。ヒラリー、トランプ、ヒラリー、トランプと接戦になった。私は床にひざまずいて祈ったんだよ。わかるかい? ひざまずいて祈ったんだ。『どうか、親愛なる神よ。トランプを我々の大統領にしてください。今祈っている多くの人たちとともに、私も祈りを捧げます』とね。そうしたらなんと。たまげたことが起きた。誰が信じたというんだ。トランプが勝ったじゃないか。ビジネスマンのトランプがほしかったんだ。ロビイストから金をもらっている政治家たちは、もううんざりだ。
トランプは我が道を進める。私も彼の意見すべてに賛成するわけじゃない。でも、大きな第一歩だ。トランプの過去なんか、どうだっていい。何人の女と寝たかも、問題じゃない。クリントンだってホワイトハウスで何をした? ケネディだって似たようなもんだ。心配なのは、孫たちのことなんだ。あの子たちがこの先、どんな社会で暮らすことになるのか。大事なのは結果だ」
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