将棋の中学生プロ、藤井聡太六段(15)と師匠の杉本昌隆七段(49)の師弟対決は、弟子の勝利に終わった。対戦翌日、杉本七段がテレビに出演して様々な舞台裏を語った。
弟子が師匠に勝つ「恩返し」を受けた杉本七段は、弟子の成長を喜びつつも「棋士としては悔しい」と複雑な表情。それでも、対局中の扇子の選択や、21回にも及んだ離席の多さに込められた思いに関するエピソードからは、弟子への愛情がにじんだ。
普段は藤井六段の扇子を使用
杉本七段は2018年3月8日、大阪市の関西将棋会館であった王将戦1次予選で、千日手差し直しの末、藤井六段に111手で敗れた。その翌9日、情報番組「ひるおび!」(TBS系)に、兄弟子の小林健二・九段とともに出演した。
杉本七段は、時に口を一文字に結んだ硬い表情で、時に笑顔で前日の対戦を振り返った。まずは対局中に手に持つ扇子の話題。普段は「藤井の扇子」をよく使っているそうだ。棋士の揮毫や名前などが印刷された扇子のことのようだ。しかし、今回は
「向こうもヤダろうし」
と別のものに。1局目(千日手で差し直し)は、今は亡き板谷進九段の扇子。ただ、これも感傷にふけってしまうと、2局目は弟子の女流棋士の扇子に変更。「感傷にふける」にもわけがある。自身は、師匠の死去により師弟対決はかなわなかっただけに、今回の対局には特別な思いがあったようだ。
勝負の結果については、
「棋士としては悔しい」
としつつ、これだけ注目が集まる中での対戦を経験できたことは、「藤井のお蔭」と感謝していた。
杉本七段は、藤井六段が5歳の頃から接しており、初めて対戦したのは「6歳か、もう少しあと」。弟子として迎えたのは5年前(2012年)。
そんな弟子が師匠に勝利することを将棋界で「恩返し」と呼ぶ、という話が披露されると、
「本当は、師匠のライバルを負かしてくれれば...」
とおどけてみせ、スタジオ陣の笑いを誘った。
「中学の卒業式はいつ?」
対局のあとは、新幹線「こだま」に2人で並んで座り、
「中学の卒業式はいつ?」
「春休みに研修会やろう」
といった話をしたそうだ。
自身の子供も藤井六段と同じ世代だそうだが、既に、将棋の手の研究で、
「こっちが(質問を)聞いて、(藤井六段が)こうだと思います」
と教えてもらう関係になっているとも。
また、師弟対決を控えた数日前に放送された「ひるおび!」で、コメンテーターの八代英輝弁護士が「(師匠が)瞬殺されないように...」と発言していたのを聞いていたそうで、1局目に千日手差し直しとなり、「瞬殺」を回避できたことで、
「千日手のとき、八代さんの顔が浮かんで...」
と明かすと、スタジオ陣はまた大笑いしていた。
身長はまだ藤井六段より高いのだが、対局の時には「こんなに大きかったかな」と驚いたとも明かした。「昔から強いと思っていた」といい、以前から「ある部分では自分を超えていた」。さらに、1年前からは「スキがない」と思うようになり、弟子の強さを実感していた。
自動販売機で「運」を使ってしまう
番組では、2人の対局中の離席回数の検証結果を公表。藤井六段が10回だったのに対し、杉本七段は21回と倍以上。藤井六段が時折、相手の背後方面から盤面を見る、いわゆる「ひふみんアイ」を行うのを念頭に、「(藤井六段がひふみんアイを)やりやすいシーンを作ってみた」と明かした。「ひふみんアイ」については、マナー違反との指摘もあることから、弟子がやりやすいよう配慮を示したわけだ。藤井六段の方も、「外で顔を洗ったりお茶を汲んだり」しながら、遠慮がちに実行していたようだ。
離席中にはこんな「笑い話」も。杉本七段が自動販売機で飲み物を買った際、「当たり」が出て小銭が戻ってきた。周囲に記者もいたことから、
「こんなとこで『運』使ってもしょうがない」
と自分から口に出した。
この辺りで話はいよいよ、具体的な対局の内容に及ぶ。2局目で藤井六段が「穴熊」(盤の隅で玉を金銀などで囲う)で戦う展開については、「よんでいた」。しかし、藤井六段に優勢に進められ、8日の放送で小林九段が「決め手」と指摘していた「(藤井六段の)85手目 4五香」については、
「これは、とどめのとどめ。この10手前ぐらいで、これは参ったな」
と、75手前後でお手上げ状態だったと説明。最終的には111手で投了した。
出演時間はCMもはさんで約30分。いろいろ話して少しすっきりしたのか、杉本七段は最後は笑顔で一礼して締めくくった。弟子への愛情あふれるエピソードに、コメンテーターのタレント、三田寛子さんは「(杉本七段の)お人柄が...」と感心していた。