飲食店「ドタキャン」裁判を傍聴 わずか1分で店側勝訴、弁護士が明かした対策

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   飲食店主を青ざめさせるドタキャン。2018年3月9日、東京簡裁でおそらく日本初とみられる民事裁判が行なわれ、ドタキャン被告に損害賠償支払いの判決が出た。

   J-CASTニュース記者は、その歴史的な裁判を傍聴取材した。

  • 団体客の予約を受け付けても客は来ない(写真はイメージです)
    団体客の予約を受け付けても客は来ない(写真はイメージです)
  • 「ドタキャンの被害額を算出するのは意外に難しい」という石﨑冬貴弁護士
    「ドタキャンの被害額を算出するのは意外に難しい」という石﨑冬貴弁護士
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  • 「ドタキャンの被害額を算出するのは意外に難しい」という石﨑冬貴弁護士

そして被告側は誰も現れなかった

   今回、原告側代理人になった横浜パートナー法律事務所の石崎冬貴弁護士は、飲食店のクレーマー客や従業員の労務など、飲食店の法律問題に詳しい。今回の裁判について、「ホテルや結婚式場など大きいところは別にして、普通の飲食店のドタキャンの裁判は初めてではないか」という。

   J-CASTニュース記者は、東京簡裁民事403号室で午前10時10分から開廷した口頭弁論を傍聴した。しかし、弁論の場には現れたのは原告の東京・新宿の飲食店主Aさんと石崎弁護士だけで、被告のBさん側は誰も現れず、わずか1分で結審した。関口政利裁判官は「被告は答弁書を出すことも弁論の場にも出席することもしなかったため、原告の申請内容を認めたものとみなします」と述べ、「主文 被告は13万9200円と訴訟費用を原告に支払うことを命じます」と判決を読み上げた。実にあっけなかった。

   記者は裁判終了後、Bさんに電話をかけて話を聞こうとしたが、携帯はすぐに切られ音信不通になった。

   訴状や、取材に応じたAさんらの話によると、ことの顛末はこうだ。2017年4月28日、Aさんの店にBさんから5月4日夜8時から40人の宴会をしたいという予約が入った。店を貸し切りにして、1人あたり3480円のコース料理を提供することになった。Aさんの店では過去に何度かドタキャンの被害があったため、ショートメールでBさんとやりとりを繰り返した。

店を貸し切りにして待った予約客40人は、別の店でご機嫌だった

   宴会当日の5月4日午後5時、Bさんに「今日の宴会は何名か」と確認の電話を入れると、「あとでかけます」。ところが電話がこないばかりか、夜8時を過ぎても誰も来ない。Bさんに電話してもつながらない。何度メールしても返信がこない。夜10時過ぎ、「警察や弁護士に相談する」というメールを送ると、Bさんから電話がかかってきた。Aさんはこう語る。

「電話の向こうは別の会場の宴会で騒がしく、本人もかなり出来あがって、ご機嫌の様子でした。なぜ連絡をくれないのかと聞くと、『携帯を落とした』というばかりで、らちがあきませんでした」

   Aさんは石崎弁護士と相談、石崎弁護士がBさんに電話で損害を補償するよう要求すると、「私は単なる宴会予約の窓口。担当者から電話させます」。

   しかし、担当者からの電話はなく、Bさんの電話もつながらなくなった。石崎弁護士は携帯番号からBさんの住所を割り出した。弁護士会照会という弁護士法に認められた権限を使い、携帯電話会社に個人情報を開示させたのだ。

   そして、Bさんの住所に40人分の料理コース費用計13万9200円の損害賠償の要求を内容証明で送ったが、受領されないまま戻ってくる始末だった。そこで訴訟を起こして勝ったわけだが、裁判の場にも出てこない相手にどう損害を支払わせるのか石崎弁護士はこう語る。

   「非常に残念です。飲食店のドタキャンについては、様々な法律問題があるので、裁判の場できちんと争って、裁判所に判断してもらいたかった。もしBさんが判決に従わないと、裁判所が強制執行することになりますが、現実には裁判所はBさんの銀行口座がどこにあり、いくらあるかまでは調べてくれない。こちらで調べるしかありませんが、それには興信所に頼むことになる。13万円を取るために10万円を興信所に払うのか、そこまで意地悪になるのか、悩ましい問題です」と苦笑いした。

ドタキャン予防にはメールで証拠を残す

   飲食店がドタキャンの被害に遭うことはメディアでも時折報道されており、店側が裁判に訴えるにはどういう点に気をつけるべきか、またそれ以前に被害に遭わないようにするにはどうしたらよいか、石崎弁護士とAさんに聞いた。

   ――訴訟に持ち込む際の注意点を教えてください。

石崎さん「裁判に訴えるには2つのポイントがあります。食事をする約束(契約)をしたのに来なかったという債務不履行で訴えるやり方と、食事に来なかったために損害を与えたという不法行為で訴える方法です。不法行為が故意なら業務妨害罪のようなものにあたります」

   ――両方とも同じに見えますが、どう違うのですか?

石崎さん「不法行為で訴える場合は、いくら損害をこうむったかを店側が証明しなくてはいけません。このことが飲食店がドタキャンを訴えることを難しくしています。例えば、40人分の宴会をキャンセルされたため食材が無駄になったと主張しても、本当に食材すべてを捨てたのか、他の客に転用したのではないか、冷凍保存すればまた使えるのではないか...と、ドタキャンした側に突っ込まれる恐れがあります。また、宴会準備のためにバイトを増やして人件費がかかったと主張しても、本当に臨時バイトが必要だったのかと、細かい疑問を突っ込まれる心配もあります」

   ――債務不履行の方が訴えやすいのですか。

石崎さん「はい。契約段階で損害賠償の金額を定めておけるので、こちらの方が楽です。Aさんの場合は、ショートメールでやりとりをしたから契約の物的証拠が残っている。しかも『キャンセル料は料理代の100%をもらいます。このことは店のホームページに書いています』と確認のメールを送っているので、損害賠償額をシンプルに決めることができました」

   ――すると、電話のやりとりだけでは証拠が残らず、債務不履行で訴えるのも難しくなるということですか。

石崎さん「そのとおりです。だからドタキャンの防止にはショートメールなどでやりとりをして、ちゃんと証拠を残すことが大事です」
Aさん「ある飲食店では、電話で予約を受け付けると、電話に相手の携帯の履歴が残り、自動的に相手の携帯メールに『予約を受け付けました。料理のコースは○○...、キャンセル料は××』とショートメールが送信されるシステムを導入しています。カネはかかりますがドタキャンがしにくくなります」
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