フィギュアスケートの羽生結弦選手(23)が挑戦を明言している前人未到の「4回転アクセル」ジャンプについて、フィギュア解説者の佐野稔氏は「成功まで1年かからないのではないか」との見立てを示した。
佐野氏は2018年3月4日放送の「Going! Sports&News」(日本テレビ系)に出演。その根拠は、平昌五輪でのトリプルアクセルにあるという。
「スローで見ると顕著にわかりますが...」
フィギュアのジャンプは難易度の低い順にトウループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルと6種類あるが、公式戦で成功例のない4回転ジャンプはアクセルのみ。他5種類のジャンプが後ろ向きに踏み切って後ろ向きに着氷するのに対し、アクセルだけは前向きに踏み切って後ろ向きで着氷するため、半回転多く回る。アクセルの難易度が高いのはここに大きな理由がある。
番組では、羽生選手が「アクセルジャンプにかけてきた思い、時間、練習、質も量も、すべてがどのジャンプよりも多い」と語っている。その背景には「僕の恩師、都築先生が言っていたのが、『アクセルは王様のジャンプ』だと」と、小学校2年から8年間指導してきた都築章一郎コーチ(80)の言葉があると明かす。
都築氏は、少年時代の羽生選手と「世界は3回転でなく4回転の時代になる。1種類でなく5、6種類やる時代になる」との会話をしていたと番組で振り返った。放送中に映像が流れた11歳当時の羽生選手は「5回転や4回転半をやりたい」とすでに希望していた。
羽生選手が11歳の時というと、およそ06年トリノ五輪と重なる。この大会、4回転ジャンプを跳んだのはエフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア・当時23)やジェフリー・バトル選手(カナダ・当時23)、ステファン・ランビエール選手(スイス・当時20)ら、ごく一部のトップ選手に限られ、種類はトウループのみだった。その時代からすでに羽生選手は4回転アクセルを見据えていた。
成功の可能性について、佐野稔氏は番組で「平昌五輪で見せたトリプルアクセル」にカギがあると語っている。
「スローで見ると顕著にわかりますが、肘が開いています。余裕があるんですよね」
「おそらく羽生選手の頭の中には跳んでいる姿ができあがっている」
佐野氏は「回転スピードを上げるには(体全体の)『軸を細くする』のが大命題。五輪選手でも、空中にあがる力がないと、ものすごく綺麗に脇を締めます。しかし羽生選手はこれだけ開いても3回転アクセルを楽々回っています」と、他の五輪選手と比較。4回転アクセル成功の可能性について、「脇をきゅっと締めて回転スピードをあげれば、あと1回転(できる)。おそらく羽生選手の頭の中には自分が(4回転アクセルを)跳んでいる姿ができあがっているんじゃないかな。1年かからないのではないかと、結構僕は楽観視しています」との見立てを示した。
「余裕」は点数にも表れていた。平昌のショートプログラムでは出場30選手の大半がトリプルアクセルを跳んでいるが、出来栄え点(GOE)で満点の「3.0点」を獲得したのは羽生選手と閻涵(えん・かん)選手の2人だけ。基礎点が1.1倍に増える演技後半に組み込んでの3.0点は羽生選手だけだった。
羽生選手が跳ぶアクセルジャンプの特徴はこの「肘」だけではない。佐野氏は2月19日の「ひるおび!」(TBS系)出演時も他選手との違いを語っていた。一般的に、左足で踏み切る場合、助走は「右足」で後ろ向きに滑り、前向きになるときに左足に乗り換える。一方で羽生選手は、「左足」で助走をつけ、カウンター(ターンの一種)を挟んで、そのまま左足で跳ぶ。佐野氏は「ずっと左足のまま後ろから前に向かないといけないので、ターン自体がすごく難しい。技術がないとステップだけで転んでしまい、アクセルジャンプまでいきません」と難度の高さを分析していた。
羽生選手は五輪2連覇後、「モチベーションは4回転アクセルだけ」と言うほどのこだわりを見せている。2月27日に外国特派員協会で会見した際も「初めの人にはなれなくても、自分の『夢』である4回転アクセルをなんとか成功させたいなという気持ちでいます」とあくなき挑戦心を明かしていた。