霞ヶ関「過労死級」残業が減らぬ理由 悪いのは「質問通告の遅れ」だけなのか

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   「霞ヶ関の某省に勤務しております。(中略)週の約半分が、朝は9時半から午前2時程度までの勤務状態です」――。

   Yahoo!知恵袋に寄せられた、ある相談の一節だ。

   働き方改革を推進する政府だが、その足元である霞ヶ関では、「ブラック」な労働が常態化する。その大きな理由の一つがいわゆる「国会対応」であり、野党による「質問通告の遅れ」がしばしば元凶といわれる。

   だが、本当にそれだけなのだろうか。そこには、国会のそもそもの「構造的問題」があると指摘する声もある。

  • 国会が変わらなければ霞が関も…
    国会が変わらなければ霞が関も…
  • 内閣人事局による調査結果。遅い時間までの待機が常態化していることがわかる
    内閣人事局による調査結果。遅い時間までの待機が常態化していることがわかる
  • 国会が変わらなければ霞が関も…
  • 内閣人事局による調査結果。遅い時間までの待機が常態化していることがわかる

3人に1人「過労死の危機」感じた経験

   冒頭の質問(書き込みは2013年)は、以下のように続く。

「最近はタクシー券の許可が下りづらい......暗黙の『申請するな』との風潮のため、執務室内のソファで寝泊まりしています。土曜日はだいたい終電までには帰れます。(中略)私は、このような扱いは、労働基準法の趣旨に反するほか、公序良俗違反であり、法を執行する行政府として、許されないものと考えております」

   こう憤る投稿者は匿名アカウントであり、書き込みの真偽は確かめようがない。だが、同じような境遇にある霞ヶ関官僚は、決して少なくないようだ。

「総理のおひざ元の霞ヶ関でもこういう状況なんです。民間企業の方にこれを見せたら、どう思われるか......」

   2018年2月20日、衆院予算委で質問に立った丸山穂高・衆院議員(維新)は、安倍晋三首相にこう質した。

   丸山議員の示した2016年度のデータによれば、本府省勤務者、いわゆる霞ヶ関官僚のうち、残業時間が年に360時間超に達する職員は46.3%、さらに年720時間超も、7.9%に及ぶ。720時間といえば、今国会への提出が予定されている「働き方改革」関連法案で、残業時間の「上限」として、これを越えれば取り締まりの対象となる時間のはずだが、そのラインを越えている職員が、現に1割近く存在するのだ。

   事実、2016年度には5件の「過労死」が認定されている(一般職公務員)。霞が関国家公務員労働組合共闘会議(霞国公)の残業実態アンケート(2017年発表)では、過労死の危険を「現在感じている」「過去に感じた」とした人は、回答者の29.0%にもなる。

質問通告そろったのは「0時」、そこから...

   いったい、何が霞ヶ関をここまで追い詰めているのだろうか。上述の霞国公の調査で、残業の主な要因として「業務量が多いため」に次いで多かった回答は「国会対応のため」(30.3%)だった。

   日本の国会では、議員の質問に対する閣僚らの答弁原稿を執筆しているのは、官僚たちだ。その準備のため、前日までに質問の内容を「通告」することとなっている。

   ところが、その通告はしばしば遅くなる。多くの省庁では通告が出そろうまで、すべての局を「待機」させているが、内閣人事局が2016年6月発表した調査結果によれば、この年4~5月の通常国会の会期中、すべての質問通告が出そろった時間は、早くて17時50分、平均で20時41分、最も遅い日は翌0時30分だった。自分のところに来るかどうかわからない質問のために、下手をすれば日が変わるまで「待機」しているわけだ。もちろん、自分の部署が関係する質問となれば、そこから大急ぎで答弁原稿を作らなくてはいけない。

   通告が遅れがちな野党議員は、たびたび批判の的になる。2017年11月には、小泉進次郎・衆院議員(自民)が、希望の党議員の通告が遅かったことを、

「各役所は拘束されることも含めて、電車もなくて家に帰れない。(中略)働き方改革を進めている中で、考えるべきことがあるんじゃないか」

と厳しく批判して、話題を呼んだ。ネット上でも、こうした野党議員の質問の遅さが「問題の元凶」であるとして、しばしば激しいバッシングが巻き起こる。

「構造的な問題」解決する必要が...

   しかし、国会でこの問題を追求した上述の丸山穂高氏は、J-CASTニュースの取材に対し、事はそう単純ではないと指摘する。

「なぜ質問通告が遅くなるのか。そこには、根本的な問題があります。そもそも『委員会が開くかどうか、決まるのが遅い』ということです。地方議会なら何日も前から誰が質問に立つか決まっている。それなら質問をする方も前から準備できるし、通告だって早くできるわけですが......」

   記者が話を聞いた23日にも、朝から予算委で質問に立った丸山氏だが、それが確定したのは前日22日、時間が決まったのはその夜だったという。これでは、いくら「早く質問を出せ」と言われても限界がある。

   丸山氏は、現在の国会が「非効率な日程闘争」となっていることが、問題の根幹だと分析する。与党は会期中に少しでも法案を多く通すために審議を詰め込み、野党は「時間切れ」に追い込むことを狙う。審議の日程そのものが政争の具となり、結果的に通告は遅れ、官僚たちは質問のための質問に答えるため、無為な残業を強いられる――。「ツケ」は、現場へ現場へと回っていくわけである。

   丸山氏自身、かつて経産省で働いた霞が関OBだ。当時は、やはり日付が超えるまで質問通告を待たされ、時には職場に泊まる日もあった。

「非常に苦しい状況でしたし、今も変わっていない。役所ももっと効率化が必要だが、国会自体を変えないと」

   この状況を脱するには、通年制の採用も含め、審議日程をあらかじめきっちり決めてしまう、委員会の間に中日を設けるなど、国会そのものの抜本的改革が必要になるというのが丸山氏の意見だ。とはいえそれには与党、野党、また霞が関の「三すくみ」を突破せねばならず、議論は進んでいるとは言い難い。

「構造的な問題なので、三者が『やろう』とならないと変えられない。総理は『国会のことは国会で......』というが、事は『働き方改革』なんだし、憲法であれだけリーダーシップを取られているのだから。カギは野党だが、岡田克也さん(現・無所属の会)も民主政権時代から国会改革を唱えてきたわけで、今がチャンスだと思う」
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