五輪4連覇中の伊調馨選手が日本レスリング協会の栄和人・強化本部長から「パワハラ」を受けていたとの告発状が内閣府に提出された問題で、スポーツジャーナリストの小林信也氏が2018年3月2日放送の「バイキング」(フジテレビ系)で、「あまり悪いことをしている感覚がない」などと協会の体質を論じた。
告発状には、伊調選手が師事する田名部力コーチに指導させないよう栄氏が不当な「圧力」をかけていたとの訴えもある。小林氏は「(圧力は)あったでしょうね」と推測している。
「金メダルが好きで好きでたまらないんです」
1日発売の週刊文春(8日号)によると、五輪選手含む複数の協会関係者の依頼で担当弁護士が作成したという告発状の内容は、(1)伊調選手が師事する田南部コーチへの不当圧力(2)伊調選手の男子合宿への参加禁止(3)伊調選手の練習拠点だった警視庁レスリング部への出入禁止処分――という大きく3点の「パワハラ」の訴えだった。
「バイキング」では、「圧力はあったのか」という問いかけに小林信也氏が「あったでしょうね」と即答。「スポーツ界ではそんなに不思議なことではないんですよ。すべてのスポーツとは言いませんが、多くのスポーツの指導者や組織のトップに立っている方はこういう体質を普通にもっていますから、あまり悪いことをしている感覚がないんです」と、体質を論じた。
また、「レスリング協会は1964年の東京五輪でスパルタが美化されて今もそれを継承している協会で、今回名前があがっていらっしゃる方々は金メダルが好きで好きでたまらないんです。金メダルがゴールなんですよ」と協会の姿勢について見解を述べた。その対比として「この間の(平昌五輪スピードスケート500メートルで金メダルを獲得した)小平(奈緒)さんが魅力的だったのは、金メダルが目標ではなくて、金メダルを取るとどんな景色が見えるかなと、そこに自分だけでなく韓国のイ・サンファ選手やみんなで一緒に上ろうという感覚があったわけです。だから自然とみんな引き込まれたと思うんです」と他競技を引き合いに出している。
「栄監督が右といえば右かなと」
伊調選手は2020年の東京五輪で5連覇がかかる。番組では、司会の坂上忍さんが「5連覇という目標あっても、連覇やメダルというより自分がどれだけ強くなれるかという先にある結果論の目標なわけでしょう」と話すと、小林氏は「そうです。伊調さんはそこにいったのに、まわりの人たちはメダルという。その差がすごく見える」「しかも悪いことにそれが今お金とすごく結びついている」と意識のギャップを推し量っていた。坂上さんは「『メダルおやじ』ばっかりなんだ。三度の飯よりメダルが好きな人たち」などと感想を述べた。
同じく番組に出演した元レスリング選手の野口美香氏は、「圧力」の存在について「どうですかね」苦笑いして明言を避けつつ、栄氏は大きな力を持っているのかという問いかけに「持っていると思います。持っています。トップなので、栄監督が右といえば右かなと。選手が左と思っていても。上下関係はしっかりしているので」と話していた。
レスリング協会は1日、報道各社にあてた文書で「当協会が伊調選手の練習環境を妨げ、制限した事実はございません。同様に、当協会が田南部力男子フリースタイル日本代表コーチに対し、伊調選手への指導をしないよう不当な圧力をかけた事実もございません」との見解を示している。東京五輪を2年後に控え、「選手、コーチ、他関係者が一丸となって『金メダル』という一つの目標に向かって邁進しなければならないこの時期に客観的事実と異なる報道がなされたことを非常に残念に思います」とも記述している。