五輪4連覇中の伊調馨が、日本レスリング協会理事で選手強化本部長の栄和人監督から「パワハラ」を受けてきたと週刊文春が報じた件が、波紋を広げている。
全日本柔道連盟評議員の溝口紀子氏は「女子柔道選手の告発と似ています」と、柔道界で過去に起きたパワハラ問題を想起。当時、不祥事を起こした監督は辞任に至った。一方、谷岡郁子・レスリング協会副会長は栄氏について「週刊文書が描いているような人物ではないと、私は保証します」と擁護した。
「五連覇を阻止する策動」
週刊文春2018年3月1日発売号(8日号)は、公益財団法人・日本レスリング協会幹部の不祥事を記す「告発状」が内閣府に提出されたと報道。五輪選手含む複数の協会関係者の依頼で担当弁護士が作成したといい、内容は(1)伊調馨が師事する田南部力コーチへの不当圧力(2)伊調の男子合宿への参加禁止(3)練習拠点だった警視庁レスリング部への出入禁止処分――という大きく3点の「パワハラ」の訴えだった。伊調は今でも練習場所が定まっておらず、告発状では「(東京五輪での)五連覇を阻止する策動」だとしている。
記事によると経緯は次のようになる。伊調は愛知の中京女子大学(現・至学館大学)付属高校に入学した00年から栄氏に師事。だが五輪2連覇後の09年に栄氏から離れ、東京で男子選手と練習をはじめると、メンツをつぶされた格好の栄氏の逆鱗に触れた。伊調は警視庁レスリング部の田南部力氏に師事したが、栄氏は「伊調のコーチングをするな」と圧力。その後12年ロンドン五輪で3連覇すると、栄氏は伊調の男子合宿参加を禁止。それでも16年リオ五輪で4連覇し、国民栄誉賞も受賞したが、今度は警視庁から出入禁止処分。田南部氏も警視庁のコーチを外された。警視庁レスリング部の監督は栄氏と高校の同級生だった。
文春の取材を受けた伊調は、栄氏に「よく俺の前でレスリングできるな」などと言われたという。東京五輪で5連覇がかかるが、「現役を続けるとなると、栄体制のもとでやるしかないので、またいろんなことを我慢しながらやっていくとなると...。(中略)なかなか腹をくくれない部分があります」としている。一方の栄氏は、男子合宿への参加を禁止されたとの告発に「ダメとは言ってないですよ。和を乱さないようにと注意をした」などと話したという。
レスリング界の大躍進を支える人物らをめぐるこうした報道について、公益財団法人・全柔連評議員の溝口紀子氏は1日、「全柔連女子柔道選手の告発と似ています。レスリング協会は第三者による委員会で真相究明していただきたい」とツイッターに投稿した。
「選手が大事で陰湿ではない」
柔道界では12年末、ロンドン五輪代表を含む女子選手15人が、園田隆二・全日本女子代表監督(当時)による暴力・パワハラの実態を告発する文書をJOC(日本オリンピック委員会)に提出する事態が起きた。その後、園田監督は辞任を表明し、謝罪。他にも複数の全柔連重役が辞任するなど、柔道界を揺るがす問題に発展した。
一方、谷岡郁子・レスリング協会副会長はツイッターで1日、「栄監督は、週刊文書が描いているような人物ではないと、私は保証します。口下手で不器用な熱血漢。欠点もあるし、誤解されやすいけど、選手が大事で陰湿ではない。だから、私が創ったレスリング部を二十数年任せてきた」と栄氏を擁護した。
吉田沙保里はじめ、五輪メダリストを何人も輩出した功績から、谷岡氏は「陰湿なパワハラ体質が中心にあって、沙保里はじめこれだけの強くも明るく、爽やかなチャンピオンたちが育つと思いますか?栄監督の指揮の下、高校生、大学生でこの9年余、退部者は1人もいません。事実が人間性の証明」と投稿している。