フリーランス漫画編集者の荻野謙太郎氏が、新人作家が出す新作が過去の名作のバーゲンセールとの競争にさらされ、厳しい状況が続いている事情を、ツイッター上で明かし、反響を呼んでいる。
きっかけは、講談社の決算発表で、「デジタル分野が大きく伸びたが、単行本や漫画雑誌の売上高を1割近く落とし、苦戦が続く雑誌などを補えなかった」と、2018年2月20日に日経新聞(ウェブ版)で報じられたことだった。
「新刊なのであまり値引きできません」
荻野謙太郎氏は翌21日、ツイッター上でこの記事を引き合いに出し、出版社の利益が落ちたのは、「大幅な値引きのセールが状態化して利益率が低いからじゃないか」と推測した。
そして、紙の書籍が売れなくなった分を電子書籍がカバーしてプラス成長しているとの説については、「新刊市場は厳しくなる一方です」とその内情を説明した。
電子書籍の市場では、「出版して時間が経った本はガンガン安売りされます」とし、こう打ち明けた。
「マンガの新刊はかつては新刊コーナーに並ぶ同期との競争が主でしたが、いまや『セール中の過去の名作を中心とした、過去作全てとの競争』にさらされてます。なお新刊なのであまり値引きできません」
紙の単行本の初版部数などは、漫画の連載を続けるかの判断要素になるが、名作などの電子書籍安売りでダメージを受けるという。その結果、電子書籍も含めて、「新人~中堅の作家の出すコミックス新刊の売上が、ここ数年恐ろしい勢いで減っています」と指摘した。
「電子書籍市場の恩恵を受けにくい」
荻野謙太郎氏は、新人作家らはヒットするか死ぬかに近い状況に陥っているとして、こう結論づけた。
「電子書籍市場の過剰な伸びの正体は『面白さが保証されており、かつセールで大幅に値引きをされている過去作のまとめ買い』であって、新作であるがゆえに面白さの保証がなく、値引きもしにくいコミックスの新刊はその恩恵を受けにくい」
萩野氏はフリーランスとして、漫画「とある科学の超電磁砲」などのヒット作を手掛けていることで知られる。一連のツイートについては、「その観点は面白い」「その通りだろうと思う」といった共感の声や、「従来の新刊本偏重の紙書籍とは違う需要を掘り起こしている、とも言えるのでは」などの感想が出ていた。