米国が「最大限の圧力を続ける」一方で、対話にも前向きな姿勢を示していたことが明らかになった。平昌五輪出席のために韓国を訪問していた米国のペンス大統領と、朝鮮労働党の金正恩委員長の特使として訪韓していた妹の金与正(ヨジョン)氏らとの会談が一度はセットされていたものの、北朝鮮側が直前にキャンセルしていた。
日本政府は「あらゆる手段を通じて圧力を最大限にし、北朝鮮の方から対話を求めてくる状況を作っていく必要がある」と従来通りの立場を繰り返すが、安倍晋三首相は現地でのレセプションで「ここでしかできない」と北朝鮮側の憲法上のナンバー2、金永南(キム・ヨンナム)氏に接触。圧力をかけつつ対話に前向きな姿勢を見せる可能性もありそうだ。
会談していれば「五輪期間中は世界のステージを北朝鮮のプロパガンダに譲ることに」
ワシントン・ポスト紙によると、一度は会談の予定が決まったが、2時間前になって北朝鮮側がキャンセルを通告してきた。同紙によると、ペンス氏が訪韓直前の2月7日に東京で行った記者会見で、
「すべての選択肢はテーブルにある」
「かつてない、厳しい制裁を発表する」
などと強硬姿勢を強調したことに北朝鮮が反発したためだとみられる。ホワイトハウスも報道内容を大筋で認めている。ロイター通信などによると、エアーズ副大統領首席補佐官が2月20日(米東部時間)に
「北朝鮮は、副大統領がメッセージを和らげることを期待して会談をちらつかせた。このとおりになっていれば、五輪期間中は世界のステージを彼らのプロパガンダに譲ることになっていただろう」
などとする声明を出した。声明では、米国が圧力を強調したことが原因で北朝鮮側が会談に消極的になったとの見方も示した。
「トランプ政権は、その残忍な政権を五輪のシャッターチャンスでごまかそうとする金正恩氏の欲望を阻止していく。おそらく、彼ら(北朝鮮)が会談から遠ざかったり、会談に臨もうと真剣に努力しなかったのは、そのためだ」
安倍首相、金永南氏との接触は「意味があった」
日本政府は「対話のための対話はまったく意味がない」とする一方で、実際は対話を試みている節もある。安倍首相は2月9日の開会式直前のレセプションで、金永南氏と短時間会話を交わしている。2月21日に公明党の山口那津男代表と会談した際、安倍氏はその意図を明らかにしている。山口氏が記者団に明らかにしたところによると、安倍氏は金氏に対して、拉致、核、ミサイル問題の解決を求め、日本側の立場を金正恩氏に伝えるように要請した。金氏への接触は「ここ(レセプション)でしかできないと判断」して行われ、「意味があった」と話したという。
菅義偉官房長官は2月21日午後の会見で、ペンス氏が北朝鮮側と接触しようとしていたことについて、
「こうした(北朝鮮が国際的な合意を反故にし続けてきたことに対する)反省の上に立って、対話のための対話はまったく意味がないという考え方だ。北朝鮮に政策を変えさせるためには、あらゆる手段を通じて圧力を最大限にし、北朝鮮の方から対話を求めてくる状況を作ってくる必要がある」
などと従来通りの見解を繰り返した。ただ、米朝の会談予定については、米国から事前に通告を受けていた可能性を示唆。北朝鮮との対話のあり方についても協議しているとみられる。
「日米間の外交上のやり取りについてお答えすることは控えたい。いずれにしろ、安倍総理とペンス副大統領との間の一連の意見交換は十分な時間をかけて、訪韓する北朝鮮代表団への対応などについて綿密にすり合わせを行い、必要な情報は共有を受けている」