トランプ米大統領の発言をめぐる一部メディアの報道に、インターネット上で疑問の声が上がった。トランプ氏は先日、「They've gotten away with murder」と日本を含む貿易相手国を批判。「get away with murder」は慣用表現の言い回しで、「好き勝手なことをしておきながら罰を免れる」といった意味だ。
だが、「殺人を犯しながら逃げている」と直訳した一部メディアがあり、ネット上で「誤訳でないか」とのツッコミが続出した。
読売、日テレ、AFP
トランプ氏は2018年2月12日(ワシントン現地時間)、ホワイトハウスで開いたインフラ投資に関する会合で、米国が貿易赤字を抱えている国々に「報復関税」を課す考えを表明した。
ロイター通信の報道によると、トランプ氏は日本と中国、韓国を名指しする形で、「vast amounts of money with China and Japan and South Korea and so many other countries(我が国は日中韓やその他多数の国との貿易で巨額の金を失っている)」と話した。その上で、こう続けたという。
「(It's a little tough for them because)they've gotten away with murder for 25 years」
直訳すれば「25年間、殺人の罪から逃げている」との意味になる。実際、大手メディアの一部はそんな日本語で報じた。
たとえば、読売新聞は14日付朝刊の国際面で「日本は『殺人』犯している トランプ氏貿易赤字巡り災難」との見出しで記事を掲載。本文ではトランプ氏が「25年にわたって『殺人』を犯しておきながら許されている」と述べた、とした。
また、日本テレビのニュースサイト「日テレNEWS24」は13日、トランプ氏が日中などを名指しし「『殺人を犯して逃げているようなものだ』と述べた」とする記事を配信。
フランスの通信社「AFP通信社」の日本語ニュースサイト「AFPBB News」も「(日中韓などの国々は)殺人を犯しながら逃げている」と訳した。
だがネットでは、これらの和訳の正当性に疑義が生じている。トランプ氏が使用した「get away with murder」との言い回しは慣用表現の一種で、他の意味に訳せるからだ。
「英語の翻訳すらまともに...」
Googleで「get away with murder」の意味を調べると、検索上位には
「好き勝手なことをしておきながら罰を免れる」(研究社 新英和中辞典)
「悪いことをしても罰せられない」(英辞郎 on the WEB)
などの結果がヒットする。これに従えば、先のトランプ氏発言は「日中韓などの国は25年間、好き勝手なことをしておきながら罰を受けていない」となる。
ツイッターなどインターネット上ではそのため、読売などに「慣用表現で殺人とは無関係」「murderをそのまま『殺人』と訳したんですね」との指摘が続出。中には、
「新聞も含めマスコミはちょっと砕けた慣用表現が混じった英語の翻訳すらまともに出来ないのか...」
「機械翻訳のほうが正しいとは...」
との声も上がった。
一方、慣用表現として訳したメディアもある。毎日新聞は13日付夕刊の総合面で、
「『...(トランプ氏は)過去25年間(日中韓は)好き勝手やってきた』と批判し...」
と報じた。
また産経新聞は13日、トランプ氏が会合で発言した内容を報じる記事をウェブに掲載したが、「get away with murder」には触れなかった。日本経済新聞も13日付夕刊で報じてはいるが、ノータッチ。13日の朝日新聞(東京最終版)は発言内容そのものを伝えていない。
読売「現地スタッフと表現を協議して掲載」
日テレは15日昼までに、日テレNEWS24の当該記事を削除した。誤訳に関する訂正、削除の説明などは見当たらない。
一方、AFP通信の英語文を日本語に編集しているクリエイティヴ・リンクは15日、記事の見出しから「殺人」、本文から「殺人を犯しながら逃げている」との記述を削り、それぞれ「好き放題だ」「好き放題にやっている」に訂正。
「原文の該当部分『getting away with murder』は、『好き放題にする』という表現であるため(中略)訂正しました」
との訂正文を発表した。
読売新聞(ネット版)は、19日夜現在も見出し、本文ともそのままの状態で残っている。
読売新聞グループ本社の広報部は19日、J-CASTニュースの16日のメール取材に対し、ファクスで
「和訳については、当社の現地スタッフと表現を協議して掲載しています」
と回答。
日本テレビ放送網の広報部と、クリエイティヴ・リンクにもメールで質問を送付している。回答が届けば、追記する。