羽生結弦は「心理戦」でも勝利? 「荒川静香の作戦」との共通点

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   平昌五輪フィギュアスケート男子で、羽生結弦選手は右足に爆弾を抱えながらも金メダルをもぎ取った。

   競技当日を前に、「心理戦」は平昌入りした時から始まっていた。フィギュア解説の佐野稔氏は、荒川静香氏がトリノ五輪で金メダルに輝いた当時をダブらせた。

  • 羽生結弦選手(2014年4月撮影)
    羽生結弦選手(2014年4月撮影)
  • 羽生結弦選手(2014年4月撮影)

「練習で跳んでおくことで、他の選手にプレッシャーをかけたのではないか」

   羽生選手は右足関節外側靭帯損傷のため、平昌五輪が4か月ぶりの実戦。焦点の1つは高難度の「4回転ループを跳ぶかどうか」だった。

   ジャンプは回転数と種類に応じて基礎点が異なる。4回転は低難度順に以下のようになっている。

・4回転トウループ:10.3
・4回転サルコウ:10.5
・4回転ループ:12.0
・4回転フリップ:12.3
・4回転ルッツ:13.6
・4回転アクセル:15.0

   バンクーバー五輪代表の小塚崇彦氏は2018年2月19日放送の「ひるおび!」(TBS系)で、「(ケガした)右足で踏み切るループの4回転を15日の練習で跳んでいましたからね。これ、完全に治ってるなって思い込んじゃいましたよね。もしかしてプログラムに入れるのかなと思いました」と話し、「練習で跳んでおくことで、他の選手にプレッシャーをかけたのではないか」と推測した。

「羽生選手が4回転ループを跳んでいることによって、他の選手からしたら(より高難度の)4回転フリップや4回転ルッツを絶対に成功させないとまずいという思いが生じます。羽生選手は出来栄え点(GOE)が高い選手なので、基礎点で高いジャンプを跳ぶしかないという思いにさせる――という意味もあったのではないかと」

   長野・ソルトレークシティ・トリノ五輪ショートトラック代表の勅使河原郁恵氏も、「私もケガした時、ちょっと強気になってしまうことがあります。他の選手に『自分はケガしてる』と思われると、勝てるなと思われてしまう。心理戦もあります」と経験から推理した。

   実際に16日のショートプログラムと17日のフリーで羽生選手は4回転ループを跳ばず、4回転ジャンプはランクの下がるサルコウとトウループだけにとどめた。着氷が乱れたジャンプもあったが踏ん張り、結果的に大きなミスはなかった。

「計算できていたんです」

   こうした試合一連の流れを、佐野稔氏は06年トリノ五輪の荒川静香氏と比較している。

「荒川さんの作戦というのは、3回転-3回転のコンビネーションを思いっきり練習で見せていた。やっちゃおうかなという雰囲気を見せ、3回転-3回転-3回転もやっていました。周りの選手にあれをやらないと勝てないと思わせ、巻き込んじゃった。それで荒川さんが本番でやったのは、3回転-2回転です」

   当時、優勝候補のイリーナ・スルツカヤ選手(ロシア)らが次々に演技を失敗。一方で荒川氏は「完璧なノーミス演技」(佐野氏)で金メダルをもぎ取った。

   小塚氏が言うように、羽生選手は出来栄え点(GOE。技の完成度に応じて-3~+3の加減点がつく)が高いのも特徴。平昌五輪のフリーで、4回転ジャンプに2点台後半(2.50点以上)のGOEがついたのは羽生選手のみで、4回転トウループに3.0点、4回転サルコウに3.0点、4回転サルコウ-3回転トウループに2.71点が加えられている。

   GOEがつく要因について小塚氏は、たとえばショートの4回転サルコウで、跳ぶ前後にスプレッドイーグル(両足を180度に広げ爪先を開いて滑る技)を入れた点をあげる。

「スプレッドイーグルだけなら(ほかの選手も)できますが、その間漕げないので、ジャンプの前にやるとスピードが落ちます。スピードがないとできません」

   ショートの4回転サルコウは基礎点「10.5点」+GOE「2.71点」で13.21点。フリーの同ジャンプはGOE「3.0点」で13.50点だ。3ランク上の4回転ルッツの基礎点「13.6点」と遜色ないことから、佐野氏は「そこまでサルコウを持ちあげてしまった。それが羽生君の武器なんです」と話す。

   羽生選手は試合後の会見で、前回ソチ五輪は「無我夢中で頑張っていた」とする一方、平昌五輪は「本当に大事に大事に結果を取りにいった」と語った。佐野氏は「ソチは気付いたら手の中にあった金。平昌は自分の手でつかみに行った金」と対比し、「欲を出さず、4回転は(ループ抜きで)サルコウとトウループだけの勝負。ソチと変わらないんですよ。跳んだ回数は多いですが。そこをやらないと勝てなかった。計算できていたんです」と分析していた。

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