平昌五輪スピードスケート女子500メートルで、小平奈緒選手がスタート直前に「ピクッ」と動いたのは何だったのか。長野五輪金メダリストの清水宏保氏が2018年2月19日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)で解説した。
清水氏は「選手の心境としては迷いが生じる」とした上で、その後の小平選手の「修正力」を称賛している。
「選手の心境としては『あれ、スタートやり直しになるのかな』」
500メートル24連勝の小平選手だが、この日は少し気になることがあった。まず、サングラスの色が1000メートルの時と異なるブラックだったこと。19日の「モーニングショー」に出演した小平選手は「普段アップ用でかけているサングラスをレース用にかけなおすのを忘れていて、そのまま出ちゃいました」と笑った。「たぶんすごく集中していたと思います」と振り返った。
同番組で、長野五輪スピードスケート男子500メートル金メダリストの清水宏保氏は、小平選手のサングラスの掛け替えを「ひとつのルーティンワーク」としたが、「それを変えるのを忘れるくらい集中できていた。大事だと言われているルーティンワークですが、ある程度枠組みを決めておいたら外れてもいい」と肯定的だった。
そうして立ったスタートラインで、小平選手は一瞬ピクッと動いた。この理由について本人は「いつもより間合いが長いなと感じていて、自分も何かの音に反応してしまって、ピクッとなってしまいました」と、ピストルのタイミングにわずかに戸惑ったことを明かしている。
清水氏はこのシーンについて「出遅れました」と解説した。
「一度ピクッと動いたことで、そのあとしっかり静止してちゃんとしたスタートになっているんですが、選手の心境としては『あれ、スタートやり直しになるのかな』と迷いが生じるんです。でも予定通りにパンッとピストルが鳴ったので迷いによって遅れてしまったんです」
それでも、結果は五輪新記録の36.94秒で金メダル。出場選手中唯一の36秒台で、2位のイ・サンファ選手に0.39秒差をつけた。清水氏は小平選手のレース展開について話した。
「(出遅れを)しっかり最初の100メートルの中で修正していった。100メートルは決して出来がよかったわけではないんですが、しっかりタイムが出ています。その心と体のバランスが素晴らしい。体がちょっと遅れているんだけど、心が落ち着いている分、上回っていった。残りの400メートルは完璧ですよね。男子選手よりも速かったくらいです」
五輪のバトンをつないでいくことが「本当の意味での五輪の遺産」
後半の伸びについて「しっかりと片足に体重を乗せられた。片足に対して自分の体を預けられたので、上半身の力が抜けたんですよね。それによって自由にしなやかに、鞭のように動き、滑りが大きく見えたと思います」と分析。また、「最後の100メートルをじっくり味わっていきたいと感じたということは、300か400メートル付近で勝った実感がわいていたと思います」と心理状態についても推測した。
落ち着いて修正できた集中力。優勝候補として挑んだ14日の1000メートルでは銀メダルだった。清水氏は2つのレース前を比較した。
「1000メートルの時は自分を一生懸命リラックスさせなきゃと、手をブラブラさせることが多かったのですが、今回の500メートルは一度大きな深呼吸でふっと吐いて、手をふらふらとさせて指先をリラックスし、軽く準備をしただけでスタートラインに立っていました。ものすごくいろんな準備が整っていたのではないかと思いました」
小平選手は栄養学や解剖学を学んで自己管理を徹底しているという。清水氏は「筋肉をつけることや、自分がどの筋肉を動かしているかということも、頭の中でイメージしながら体作りをしている。そういった小さな積み重ね、感覚、感性、理論を融合させて今の小平選手がある」と、積み重ねが結果につながったことも強調した。
金メダル獲得直後のインタビューエリアで清水氏は「宏保さんと同じ位置に来れました」と声をかけられたという。だが「僕の心の中では超えたなという思いです」と心境を明かす。今後の小平選手に対して、
「20年前に僕が金メダルを取って小平選手が僕に思いを抱いてくれたように、いま多くの子どもたちが五輪を見て憧れを抱いていると思います。五輪のバトンをつないでいく、子どもたちを育てていくことが、本当の意味での五輪の遺産だと思うんです。だからそういった子供たちを今後、指導ではないですけど、見えない波紋のように影響を与えていってもらいたいなと思います」
と期待を込めていた。