米フロリダ州のパークランドにある高校で2018年2月14日、銃乱射事件が起きたのは、たまたま私が同州のタンパ国際空港に降り立って数時間後のことだった。私はここに友人を訪ねてやってきた。メキシコ湾沿いにある町で、美しいビーチが広がる。
その夜、リビングルームでテレビを付けると、どの局も一斉にこの事件を報道していた。「光世がフロリダにいる間に一緒に食事をしよう」と友人の知り合いが送ってきたメールを、報道の合間に友人が声に出して私に読んでくれた。
私のごく身近にいた被害者
翌朝、私がリビングルームに降りていくと、「大変なことが起きたのよ」と友人が言い、同じ知り合いから届いたメールの内容を見せてくれた。前夜、銃乱射事件の報道に釘付けになり、返信が遅れた友人の詫びのメールに対する返事だという。
「パークランドの学校で銃乱射事件のあった時間に、息子から電話がありました。私たちの孫娘は、この学校に通っているのです。事件が起きた時、孫娘は現場から離れた教室にいました。火災報知器が鳴り、教室を出て校庭に行きました。すると銃声が聞こえたので、フェンスを越えて近くのウォルマートへ走りました。孫娘から無事であると電話を受けた両親が、ウォルマートに車で迎えに行きました。 事件があった時、孫息子は隣の中学校にいて、その後、学校は3時間ほど厳重封鎖の状況にありました。ふたりとも無事に家に戻ってきて、本当によかった。元気でいると、ふたりともメールしてくれました。考えただけでも吐き気がするけれど、私たち家族は本当によかった。でももちろん、そうではない家族がたくさんいます。学校は無期限閉鎖になります。今日、孫たちに電話してみます。 追伸:パークランドは昨年、フロリダで最も安全な街に選ばれていたんですよ」
その後、孫娘が避難したウォルマートに容疑者も犯行後に行っていたことを、友人と私はテレビ報道で知り、震え上がった。
「次は私の番?」行動を起こした高校生
翌朝、友人と一緒にNBCでこの事件の報道を見ていたが、コマーシャルになったので私が共和党寄りのFOXニュースにチャンネルを変えた。それを見ていた友人が突然、テレビ画面に向かって憎々しげに叫んだ。
「これはあんたたちの責任でもあるのよ。銃規制を支持してこなかったんだから」
そして私に向かって、忌まわしそうにつぶやく。
「ほら。FOXもトランプも、容疑者の精神疾患には言及しても、銃規制には触れもしない」
その後、今回の事件で亡くなった女子生徒の母親が、トランプ大統領に向けて次のように叫び訴える様子が、CNNで報道された。
「トランプ大統領、『何ができるのか』とあなたは言いますが、あなたは子供たちの手に銃が渡るのを食い止めることができる。すべての学校の入口に金属探知機を設置できる。あなたに何ができるか。できることはたくさんある。私たち家族にフェアではないじゃないですか、私たちの子供たちが、学校に行って、殺されなければならないなんて。 この数時間、私は14歳の娘の葬儀の埋葬手続きをしていたのですよ。トランプ大統領、お願いですから、何かしてください。何かしてください。行動を。それが必要なのです、今。子供たちは今、安全が必要なのです」
母親の訴えは多くのアメリカ人の心を動かした。しかし、「人生で最悪な状態の時に、CNNはトランプ氏を攻撃するために、この母親を利用した」、「娘が亡くなったのは、トランプ氏のせいではなく、FBI(米連邦捜査局)のせいだ」、「母親はトランプ氏に謝り、代わりにFBIに怒鳴り散らすべきだ」と批判する声もあがった。
トランプ大統領は全米ライフル協会(NRA=National Rifle Association of America)の支持を受けているため、銃規制に消極的だと非難されている。しかし、今回の事件では、容疑者が学校を銃撃する可能性があるという情報を入手していたにも関わらず、捜査を怠ったことをFBIが明らかにしたため、批判の矛先は、トランプ氏よりFBIに向けられた。
前述の私の友人は、昨日も今日もこう言った。
「何度も同じような事件を起こしてきた。こんな国はアメリカだけよ。保身のために銃を持つことには賛成できる。私も1人でいた時には、ベッド脇に銃を隠していたことがある。でも、今回のようなアサルトライフルを持つ必要が、どこにあるの? 今度という今度は、人々が本気で怒っている。今度こそ、アメリカが変わるのではないかと思うわ」
彼女の夫も先ほど、車を運転しながら、「自分もこれから銃規制のために、何か行動を起こそうと思っているところなんだ」とつぶやいた。
そんななか、早速、行動に出たのが、高校生たちだ。
事件が起きた学校の生徒たちが、「私たちは子供なんです。投票権のあるあなたたち大人が行動を起こし、銃を規制してください」とテレビで訴えた。
また、銃規制に向けて何もしようとしない議員たちに抗議し、全米で高校生が#menext(次は私)運動を始めた。思いや祈りではなく、行動してほしいと、賛同する生徒たちに#menextのタグを付け、自分たちの写真をSNSにアップしようと呼びかけている。
目が覚めて、「次は私の番?」なんて自分に問いかけたくないから、と。(敬称略 随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。