宅配便最大手のヤマト運輸を傘下に有するヤマトホールディングスの株価が2018年2月1日、2918円まで上昇し、2年10か月ぶりの高値を付けた。その後も株式市場が全体として下げ相場となるなかで大崩れには至っていない。
1月30日に発表された2018年3月期の通期業績の上方修正に加え、同日の記者会見でヤマト幹部が企業向けの値上げ交渉が成功したことを明らかにしたと伝わり、宅配便事業国内トップシェアのヤマトの業績向上を投資家が期待している。
大口客1100社のうち約4割が取引を解消
ヤマトは昨17年来、人手不足と荷物増の中、ドライバーの待遇改善なども目的に宅配便の値上げに取り組んできた。ヤマトの取り扱う荷物数の1割を占める個人向けについては17年10月、平均15%の値上げに踏み切った。個人向けは実家の親から一人暮らしの娘に差し入れを送ったり、自分のスキーやゴルフの用具を専用の宅急便で運んでもらったりするものだ。個人向けは消費税率引き上げ時を除くと27年ぶりの価格改定だったが、ヤマト全体の中での量は少ないため、業績への影響も限られる。
一方でヤマトは残る9割を占める、ネット通販大手アマゾンなど企業向けについても、取引先との値上げ交渉を2017年春から本格化させ、年末までにアマゾンを含む多くの企業から値上げへの同意を得た。値上げ幅は個人向けの15%より高いという。値上げ交渉の過程で大口客1100社のうち約4割がヤマトとの取引を解消したが、その多くはもともとヤマトが「どちらかというと不採算な取引であるし、取扱荷物が増えすぎても困るのでこの際切りたい」と願っていたと取引先とみられており、むしろ想定内の反応だったと言える。ある通販会社は匿名を前提に「ヤマトからかなり高めの球(値上げ幅)が提示され、ほとんど取引継続は無理だと思った」と打ち明ける。
実際、ヤマトはドライバーの待遇改善に向けて取り扱い荷物の総量抑制に取り組んでおり、値上げ交渉を通じた取引解消の効果もあって2017年10月から18年1月まで4か月連続で宅配便荷物数が前年同月比でマイナスとなっている。1月は前年同月比8.3%減の1億2828万個で、4か月の中で最大の下落率だった。ヤマトは足元の荷物の減少について値上げで補える範囲とみており、業績は改善すると予想する。実際、1月30日には2018年3月期の業績予想を上方修正し、営業利益は従来予想を60億円上回る310億円を見込んだ。ヤマトは上方修正にあたり、「第3四半期(2017年10~12月)は宅急便単価が上昇し始め、業績は回復基調になった」とするコメントを出した。
なお人手不足感が解消しないという課題も
世の中を見渡すと、振り込み手数料引き上げや口座維持手数料徴収を視野に入れる銀行業界などから、値上げに成功したヤマトを羨む声が聞かれる。ヤマトについては2017年、ドライバーの労働環境の過酷さを訴えるキャンペーン的報道があり、値上げを受け入れてもらう素地が作られたことも後押ししたといえる。
ひとまず、値上げと多すぎる荷物量の減少に成功したヤマトだが、働き方改革によるドライバーの労働時間削減により、なお人手不足感が解消しないという課題も残る。それは追加費用を伴う同業他社への委託につながり、業績を圧迫する要因になるとの見方もある。