東京都大田区の町工場を中心に開発された「下町ボブスレー」の展示品からスポンサー企業のステッカーが剥がされているという指摘がインターネット上で伝わり、「平昌五輪のジャマイカ騒動でスポンサーが撤退したのでは?」という憶測が流れた。
だがJ-CASTニュースが下町ボブスレーのプロジェクトチームを取材すると、事情は異なっていた。ネット上の憶測に対し、担当者は沈痛な思いを明かす。
何十枚と貼られていたロゴステッカーがなくなる
報告はツイッターで2018年2月10日にあった。ボブスレーは大田区産業プラザ(PiO)に展示されているもので、以前は何十枚と貼られていたスポンサー企業のロゴステッカーがなくなり、ほぼ素地のブラック一色という簡素なルックスになっている。
「下町ボブスレー」プロジェクトは、平昌五輪で採用する方向で契約していたジャマイカチームが大会直前に使用を取りやめ、ラトビアのBTC社製ソリに乗り換えるという騒動の渦中にある。「ステッカー剥がれ」でこの問題を想起したユーザーは多く、「関わりたくないんだ」「逃げ足の速さ」などとして、梯子を外された形となったプロジェクトからスポンサー企業が撤退を図ったのではないか、という憶測が生まれ、ツイッターでの投稿も相次いだ。
大田区の町工場が大同団結して世界トップレベルの日本製ソリを作るという「下町ボブスレー」は、協力企業・団体が150超という一大プロジェクト。公式サイトによると、スポンサーはメインのひかりTVをはじめ、ANA(全日空)、伊藤忠商事、東芝、さらにデサント、日本通運など全21社が連なり、これらの企業ステッカーがPiO展示のボブスレーにも以前貼られていた。
本当にジャマイカ騒動を受けてスポンサーが撤退したのか――。J-CASTニュースが13日、下町ボブスレーネットワークプロジェクトの担当者に取材したところ、こう断言した。
「いえ、まったく違います」
では、なぜ貼られていたステッカーが剥がされているのか。
「撮影の都合で一時的に剥がしています。先週ごろからだったと思います。終わればまた貼り直す予定です」
ジャマイカチームの話とステッカーの件は無関係ということだ。
騒動後、スポンサーからは「温かい言葉」も
担当者は「スポンサー企業の皆様は資金提供だけでなく、運用のノウハウなども含めて提供いただいています。今回のジャマイカチームの話があってもプロジェクトから下りるということはなく、何社からは『大変だと思うが五輪を目指して続けてほしい』と温かい言葉をいただいています」と関係は変わらないと話す。なお、展示されているボブスレーは旧型モデルという。
下町ボブスレーの構想は2011年にスタート。16年1月にジャマイカのボブスレー連盟が採用を決定し、17年11月には「10号機」を使用した同国女子チームが北米杯で銀メダルを獲得するなど好成績を収めてきた。
だが、平昌五輪直前に使用拒否。ラトビアのBTC社製ソリと比べ、ジャマイカ連盟側が性能や安全性に疑問符をつけていることも報じられた。
こうした経緯からインターネット上では「下町ボブスレーはおとなしく引き下がれ。あまりに無様でみっともない」「むしろジャマイカに謝らなきゃな」「技術力のある下町のおっちゃんを神格化しすぎた」などと批判の書き込みが殺到する事態となっている。
下町ボブスレー側は5日に会見を開き、7日には公式サイトでも「ソリ開発・貸与の契約解除および損害賠償請求の法的措置を取る手続きを進めます」と声明を発表。ただ法的措置はあくまで「予告」であり、「これまでの経緯を思い出し原点に戻り、下町ボブスレーを使ってもらうことに立ちかえってもらうことを促すものです」といった内容も書かれている。
担当者は取材に対し、「ジャマイカチームの皆様は世界を転戦しながら日本の下町ボブスレーチームを訪れた時、『家に帰ってきたようだ』と涙を流してくれたこともあります。2年以上かけ、お互いに信頼関係を築いてきたと思っています。会見とウェブサイトの説明もジャマイカに振り向いてほしくて出した次第です」と話す。
「レギュレーションチェックの申し入れをしていますが...」
7日の声明によれば性能面でも、ジャマイカ側が指名した技術者は、テスト滑走の結果「下町ボブスレーはBTCより速く、ワルナー(編注:ドイツ製ソリ)と同等」と評価したという。
また、ジャマイカ側は下町ボブスレーに対し「レギュレーションチェックに合格していない」と述べているというが、担当者は「実際は何度も合格しています」とした上でこう話す。
「不安であれば一緒にチェックしましょうと呼びかけており、ボブスレーの国際連盟にお願いしてチェックの手配を整えました。ですがジャマイカ側が乗ってくれず、韓国へ行って準備しましたが『我々のソリではない』と言われてしまい...。再度チェックの申し入れをしていますが、ジャマイカ側から返事がありません」
ネット上の誹謗中傷コメントに対し「町工場のみなさんは心を痛めています。補助金ドロボーと言われることもありますが、そんな下心はあるはずもなく、資金不足の中で一生懸命やられています。どうかご理解いただければと思っています」と話していた。