移住者でも違う「理想のアメリカ」
30年ぶりとなるトランプ氏の抜本的な税制改革も、ロブは評価している。
「法人税と所得税の減税で、富裕層が優遇されるだけだと民主党支持者は反対するが、僕らのような中産階級も減税になる。基礎控除額も、例えば夫婦で確定申告している場合、2017年度は12,700ドルだが、2018年度には24,000ドルとほぼ2倍に増える。確定申告は複雑だから、実際に計算してみないとどれだけの減税になるかはわからないが、 仮に月数十ドルの減税だって助かるという人は多い」
ロブはトランプ大統領の移民規制にも、おおむね賛成している。移民が自分の親や子供、そして兄弟を呼び寄せたり、恩赦や宝クジで永住権を取得したりするのを制限し、「もっと能力に応じて移民を受け入れるようにすべきだ」と力説した。
そこへ妻のベッツィが、デザートのリンゴを持ってキッチンから戻ってきた。
「(マンハッタンにある)私の職場のすぐそばに、屋台で果物を売っているバングラデシュ人がいるの。とてもいい人で、時々、私がリンゴを買いに行くと、バナナ1本、おまけして袋に入れてくれたりするわ。いつか彼と話していたら、自分の家族や親戚を26人、アメリカで暮らせるように呼び入れたって言っていた。26人もよ」
ロブとベッツィはキリスト教系の非営利団体で長年、働いてきた。ロブはオーストラリアから何十年も前にアメリカに移住し、ようやく今、米市民権を申請中だ。ベッツィは中東で生まれ育ったアメリカ人で、今はアジアに対する理解を深めるための非営利団体で働いている。ふたりともオープンで気さくな性格で、さまざまな国で暮らした経験があり、世界中に友人がいる。
「トランプを支持しない人たちと、政治の話をすることはあるの」と私がロブに尋ねると、首を横にふる。
「しないさ。彼らは頑固で、自分たちが正しいと信じ切っているから」
ロブとベッツィにも、彼らが理想と信じるアメリカ像がある。(敬称略 随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。