2018年2月の初め、英国のメイ首相が中国を正式に訪問した。日本のメディアは、約1兆4千億にのぼる商談をまとめ、中英の「黄金時代」を演出したが、シルクロード経済圏構想「一帯一路」については英側が警戒感をもっており、中国との温度差が明らかだった、などと報じた。
しかし、中国メディアの報道は、日本のメディアがほとんど無視している「中英による雄安金融科技ゾーン建設」が重きに置かれている。そもそも日本メディアがあまり関心をもっていない「雄安新区」とは何か。
深セン、上海に次ぐ新たな経済特区
中国では国家的な規模の経済特区が国家経済を牽引してきた。
深セン特区は鄧小平が1980年から建設に着手し、中国の改革開放のシンボルにして、今ではさらに中国の技術革新の新都市となっている。
上海を中国の金融センターにしたのは、江沢民時代の1990年代のことであった。これにより、中国経済を引っ張っていく地域は、深セン、広州などの華南地区から北上して、上海、江蘇省、浙江省などの華中地域に交替した。
中国経済をさらに発展させて、次は華北地域のどこを経済発展の中心にするか。習近平時代となった2017年4月、北京の南に100キロ離れた、いくつかの県(雄県、安新県、容城県)を統合して「雄安新区」の建設が発表された。
それ以降、筆者は何度か雄安を取材した。2000平方キロの広さは深セン特区、上海金融特区よりはるかに大きく、道の両側には「千年大計」(千年にわたる大きな計画)のスローガンが至る所にあった。雄安を深セン、上海のように、中国経済を長く引っ張っていく新しいエンジンにしようという中国政府の思いを強く感じる。
英国の金融、科学技術が雄安に根を張っていくことは、1兆4000億円の商談よりもっと重要だと思われる。
これから始まる大規模工事
現在、雄安新区で大規模な工事建設はまだ見られないが、実際には、平静の中に「爆発」する力が潜んでいるという段階にある。
中国メディアの報道によると、2018年1月13日、第1回中国雄安産業発展フォーラムおよび北京における雄安産業発展促進会設立の式典で、河北省雄安新区管理委員会の呉海軍副主任は、次のように語った。
「雄安新区企画の枠組みはほぼ出来上がり、一連の重点プロジェクトもまもなくスタートし、交通基盤施設と環境プロジェクトの建設を速めることになる」
「雄安新区の建設がまもなく新たな発展段階に入る」
実際、河北省社会科学院の専門家の話によると、雄安新区の従来型産業の移転はほぼ完成したという。
新区を構成する容城県の「中央企業大通り」では、1キロほどの道の両側に、建築・デザインの業務に従事する中央企業、地方の国有企業、民間企業約30社がずらりと軒を並べている。都市建設投資・エネルギー・電信・建設材料・物流などの多くの企業も看板を出している。
現地の住民の話によると、雄安新区に進出はしたが、まだ正式には開業していない国有企業や民間企業も多くあるという。
早くも進出を決めた英国
1月13日のフォーラムで、如是金融研究院の院長でチーフエコノミストの管清有氏は次のように予測した。
「今後5~10年で、雄安新区が固定資産投資のピークを迎える」
関係者によると、北京と雄安を結ぶ直通列車、都市間鉄道、路線バスが2018年に開通する見込みだ。
上述した呉海軍副主任は、次のように雄安新区の産業を描いている。
「将来、雄安新区はビッグデータやクラウドコンピューティング、AI(人工知能)などの新技術を導入し、スマート化のインフラ建設を強化し、多岐にわたってスマート化サービスを提供する」
北京などの企業の間では、雄安建設に参与し、雄安で経営を展開しようという積極的な意欲も高い。
深センのすぐ隣には香港があり、深センの発展によって香港の受けた恩恵について英国はどの国より肌で感じていただろう。今回の雄安新区建設にいち早く態度を表明した背景には、それがあったとも思われる。
さて、日本はこの中国の新たな変化をどう見て、どう行動していくだろうか。
(在北京ジャーナリスト 陳言)