消費者向け製品になお課題は多い
社長就任直前の2012年3月期は、4566億円の最終赤字を計上していた。最終赤字は4期連続と、凋落の瀬戸際にあったソニーの大看板を背負い、再建に向けて人員削減や製造拠点の統廃合、パソコン「VAIO」事業の売却など、リストラに次ぐリストラを断行した。音響製品など社内の主流部門ではなく、傍流とも言えるCBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテイメント)出身ながら、経営にあたっては社内外から常に「ソニーらしさ」を求められる。そうした一方、家族を米国に置いて東京に単身赴任する生活は、平井氏に大いにストレスを与え、髪をどんどん白くしていったのかもしれない。
21世紀に入って日本企業を猛烈に追い上げた韓国・中国勢、アップルなど底力のある米国企業を前に日本の家電メーカーは総崩れとなった。他の日本勢は、自動車部品ないしエレベーターなど社会インフラのような対企業向けビジネスを中心にして生き残りを図っている。一方、ソニーは、スマートフォンの画像センサーのような部品メーカー、映画・音楽といったソフトメーカーの立場も大事にしつつ、あくまでも消費者向け製品の生産販売にこだわった。消費者向け分野のソニーの戦況は、過去最高益を見込む今もまだ危うさを残すが、犬型ロボット「アイボ」の復活までは漕ぎ着けた。そこは平井氏の功績の1つと言えるだろう。
今回の2日の記者会見で平井氏の傍らに立った次期社長の吉田氏は、すっかり髪が白くなった平井氏よりさらに白髪の量は一枚上のように見える。社長交代で社長の年齢は若返るどころか1歳プラス。財務畑を歩み、ソニーを卒業していた吉田氏を2013年末、平井氏が最高財務責任者(CFO)として登用した。利益を生む体質に向け、二人三脚でソニーの構造改革を進めた。営業利益の最高益更新の立役者であることに間違いなく、次期社長の有力候補者とも目されてきた。笑顔が軽やかな印象の平井氏とは対照的に、記者会見や社内の会議で見せる「眉間のしわ」で知られ、それは安易な妥協を許さない姿勢とも受け止められている。
V字回復を果たしたがゆえに、吉田新体制はさらに高水準の業績を求められる。金融や映画・音楽、ゲームは順調で財務体質も安定してきたが、成長しているとは言い難いスマートフォン「Xperia」など消費者向け製品になお課題は多い。社長交代を発表した記者会見で「守るべき所はしっかり守り、攻めるべき所は攻めていく」と語った吉田氏の「次の一手」を株式市場などが注目している。