物販イベントの出展ブースで商品を購入した客が、「障害を抱える妹が間違って買った」ことを理由に、出展者に返品・返金対応を要求した。
一度は応じようとした出展者だが、最終的に「障害者の妹」の話は「嘘」であり、その客は「転売スクールの課題の一環」で購入したという。「転売スクール」とは何か。J-CASTニュースは事の顛末を出展者に聞いた。
「重要な話しですので、弁護士さんを雇いました」
インターネット通販で自身のアクセサリーブランド「JISS」を展開する森愛純さんは、2017年11月11~12日に開催されたアートイベント「デザインフェスタ」にブースを出展、商品を販売した。森さんが例の客とかかわり合うことになったのは、このイベントだ。
ことの成り行きは、18年2月4日以降の森さんのツイッターに書かれている。
まず客は、JISS側にこう送信してきた。
「私の障害を抱える妹が、11月のデザインフェスタで、こちらのショップから購入してきてしまいました。明らかに誰が見ても障害を持つことは分かる子に商品を売るなんてと驚き、家族全員で悲しい思いをしました。返品したく、皆でお店を探し回ったのですが、見つけられないままにイベントは終了してしまい、泣く泣く持ち帰りました。(中略)かわいそうにレシートは貰えなかったそうです」
品物は新品のまま保管しており、「返品対応をよろしくお願い致します」と求めてきた。また「重要な話しですので、弁護士さんを雇いました」と書かれており、購入先がJISSだと特定できたのも「弁護士さんのおかげ」という。
森さんは返信で、「そのような悲しい思いをさせてしまったこと、誠に申し訳ありませんでした」と謝罪し、「返品並びに返金については、事情を知らずに販売してしまった事もありますので承ります」と応じる意向を示した。その上で、確認のため購入品を撮った写真の送付を願い出た。
客は購入品の写真を添付し、「彼女は発達障害で落ち着きがなく、コミュニケーションに難があるため、買い物をすることも難しいのですが」といったことを書いていた。
写真の商品がいずれも販売した商品と確認した森さんは、「早急に返品をさせて頂きたく思います」と客にメールした。総額は合計21点で4万5200円。ただ、次のような内容を付記していた。
写真中の購入商品の1つに、剥がすはずのバーコードを誤って貼ったままにしていた物があった。一方で森さんは、JISSの商品がネットのフリーマーケット上で販売されているという情報を「ファンの方から聞いて覗きに行ったことがあります」として、同様にバーコードが貼られたままのJISS商品を見つけたことがあった。他にも写真中の商品と同様と見られる物がフリーマーケットに数点あった。デザインフェスタでは正規ネット通販価格より安価に販売したが、「デザインフェスタ価格以上、正規ネット価格以下」で出品されていたという。
「転売スクールで学び、課題の一環で転売」
その後、状況は一変した。森さんはツイッターで6日、「商品の返品・返金はキャンセルとなりました」「障害者云々の話も嘘で、Bさん(編注:客)のなりすましでした」と報告したのだ。この客は、
「転売スクールで学び、課題の一環で転売」
しようとしたという。
この間、一体どんなやり取りがあったのか。「転売スクール」とは何なのか――。J-CASTニュースは7日、メールを通じて森さんに取材した。
最初に問い合わせが届いたのは2月3日。これを読んだ森さんは「『明らかに誰が見ても障害を持つことが分かる子』を覚えているか聞きたくて、デザインフェスタで手伝いをした友人にまずメールの内容を見せ、相談しました」という。すると、「友人は覚えていないどころか、メールの内容を疑っていました」と明かす。同友人はこの客について「バイヤーさんのように商品について聞かれる方だった」「店頭に立っていた時の状況と、問い合わせ文章では矛盾している内容があるように思えた」と述べたという。
こうした事情から、客は転売目的でJISS商品をイベントで購入したものの、いざフリーマーケット等で転売しようとしたら買い手がつかず、購入先のJISSに返品・返金対応を願い出たのではないか――という疑念を募らせた。
森さんは客と折衝を重ねた結果、ツイッターの報告にあるように最終的に返品・返金はキャンセル。その中で、「内容の真偽はわかりませんが」と前置きしながら、こんなメールが届いたことを明かした。
「入校していたビジネススクール(転売スクール)の一環の行事で、あのデザインフェスタにスクール生達と行きました。スクールの課題では、転売ということだったのです。(中略)もちろんスクールの課題で購入したので、そのデザインフェスタで購入した商品が出品担当の講師の手により、一時期はネットにあげられておりました」
ネットで「転売スクール」を調べるといくつかヒットする。働きながら「副業」のように転売を行い、1品で30万の利益を得たり、月商100万円に達したりした受講生もいる、などの記述がある。受講料は高いコースで30万円を超える。JISSの客は具体的なスクール名を明かさなかったといい、やり取りした内容のどこまでが転売スクールで学んだものかも分からない。
J-CASTニュースは、「転売目的の購入品がもし一定期間転売できなかったら、元の購入先に返品依頼するように指南もするか」「その際、障害者を騙るなど具体的な交渉方法も指南するか」などについて、ある転売スクールに取材を試みたが、「担当者が出張中」として回答は得られなかった。
「刑法上の詐欺罪が成立する可能性」
最初から転売目的で商品を購入する場合、刑事責任を問われる可能性がある。弁護士法人・響の天辰悠(あまたつ・はるか)弁護士はJ-CASTニュースの取材に、
「転売目的の購入を禁止している販売者から、本当は転売目的であるのにそれを秘して購入した場合は、刑法上の詐欺罪が成立する可能性があります。現に、利用規約に反して転売目的でチケットを購入し、有罪判決を受けた例があります。今回の事例だと、販売者が転売目的での購入を禁止していたか、即売会主催者が転売目的での参加を禁止していたという事情があれば詐欺罪となり得ます」
と答えた。
JISSはECサイトで公表している利用規約の中で、利用者・購入者に対する「禁止事項」(9条)を列挙しており、そこにこんな定めがある。
「本サービスを通じて入手したコンテンツを利用者または購入者が私的使用の範囲外で使用する行為」(4号)
「他の利用者、または他の利用者以外の第三者を介して、本サービスを通じて入手したコンテンツを複製、販売、出版、頒布、公開する行為およびこれらに類似する行為」(5号)
これが「転売目的の購入を禁止している」状態にあたるかどうか。天辰弁護士は
「あくまでオンラインストア上の利用規約なので、対面販売でも同規約の効力が及ぶかどうかは見解がわかれるでしょう」
としていた。あたると言えるためには、
「禁止されていることが、利用者にわかる状態かどうかがポイントになります。たとえば、チケットであれば購入時に利用規約がWeb画面に表示されたり、裏面に禁止事項の記載がされています。今回であれば、即売会の入場券やチラシに転売目的での入場を禁止する文言が入っていれば、詐欺罪になり得るでしょう」
とのことだった。イベントとして転売目的の購入を禁止しているか、主催のデザインフェスタ社に問い合わせたところ、「各出展者の判断に委ねている」という。
天辰弁護士は、詐欺罪の他に検討されるものとして「転売には古物営業法上の許可が必要ではないかとの指摘もあり得るのですが、転売目的で購入した新品(一度も使用されていないもの)は古物営業法上の『古物』にはあたりませんので、今回の事例では古物営業法違反とはなりません」とも話している。
そして、「転売スクール」の看板を掲げて転売方法を指南する行為について、
「スクールの開設行為自体を取り締まる規制はないといえます。ただ、スクール生が詐欺行為や古物営業法上の違反行為を行った場合は、講師が共犯者として立件される可能性があるでしょう」
と話していた。